百貨店の代表取締役は、商品の仕入れに当たり、仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入れに伴う無用な支出を避けるべき任務を負うものであり、特定の業者の利益を図る目的をもって、右任務に背いて右業務を納入業者と百貨店との間に介在させて差益を取得させ、それと同額の損害を百貨店に与えた本件においては、右代表取締役には特別背任罪が成立し、これに加功した被告人は同罪の共同正犯としての刑責を免れない。
百貨店の代表取締役の任務違反に加功した被告人について特別背任罪の成立が肯定された事例
商法(昭和56年法律74号による改正前のもの)486条
判旨
百貨店の代表取締役が、正当な理由なく仕入経路に第三者企業を介在させて差益を取得させた行為について、任務違背および財産上の損害を認め、特別背任罪の成立を肯定した。
問題の所在(論点)
直接仕入れることが可能な状況で、あえて中間業者を介在させて高い価格で仕入れを行う行為が、特別背任罪における「任務違背」および会社への「損害」にあたるか。
規範
株式会社の代表取締役は、商品の仕入れにあたり、仕入原価をできる限り廉価にするなど、仕入れに伴う無用な支出を避けるべき善管注意義務(任務)を負う。図利加害目的をもってこの任務に背き、合理的な理由なく中間業者を介在させて差益を取得させた場合、当該差益相当額の「損害」を会社に与えたものとして、特別背任罪(会社法960条1項1号、旧商法486条1項)が成立する。
重要事実
百貨店Aの代表取締役Bは、その愛人である被告人が経営する会社CおよびDと共謀した。A社が海外で買い付け、D社を介して輸入した商品について、本来はD社から直接仕入れれば足りる。しかし、BらはC社に差益を得させる目的で、合理的理由がないのに殊更にD社からC社へ転売させ、さらにC社からA社が仕入れるという経路をとらせた。その結果、C社に中間差益を取得させた。
事件番号: 平成15(あ)59 / 裁判年月日: 平成17年10月7日 / 結論: 棄却
甲社の絵画等購入担当者である乙らが,丙の依頼を受けて,甲社をして丙が支配する丁社から多数の絵画等を著しく不当な高額で購入させ,甲社に損害を生じさせた場合において,その取引の中心となった甲と丙の間に,それぞれが支配する会社の経営がひっ迫した状況にある中,互いに無担保で数十億円単位の融資をし合い,各支配に係る会社を維持して…
あてはめ
BはA社の代表取締役として、仕入原価を廉価に抑え、無用な支出を避けるべき任務を負っていた。それにもかかわらず、合理的理由なくC社を介在させたことは、C社の利益を図る目的による「任務に背く行為」にあたる。また、本来支払う必要のなかった中間差益分は、A社が支払った不必要なコストであり、これと同額の「財産上の損害」をA社に与えたと評価される。被告人は、非身分者ながらBの行為に共謀して加功しているため、共犯(刑法65条1項)が成立する。
結論
Bには商法上の特別背任罪(現行会社法960条1項1号相当)が成立し、被告人は同罪の共同正犯としての刑責を免れない。
実務上の射程
トンネル会社等を介在させるいわゆる「中抜き」や「不当な中間搾取」について、背任罪の成立を認める際のリーディングケースである。答案上では、経営判断の裁量を逸脱した「任務違背」の具体例として、また「損害」の算定において、本来あるべき適正な取引価格との差額を重視する立場を示すものとして引用すべきである。
事件番号: 平成7(あ)246 / 裁判年月日: 平成10年11月25日 / 結論: 棄却
相互銀行の役員らが、土地の購入資金及び開発資金等の融資に当たり、右融資は土地の売主に対し遊休資産化していた土地を売却して代金を直ちに入手できるなどの利益を与えるとともに、融資先に対し大幅な担保不足であるのに多額の融資を受けられる利益を与えることになることを認識しつつ、あえて右融資を実行することとしたものであり、相互銀行…
事件番号: 平成14(あ)1431 / 裁判年月日: 平成17年10月7日 / 結論: 棄却
商社の代表取締役社長がその任務に違背して巨額の融資を行った場合において,融資実行の動機は同社の利益よりも自己らの利益を図ることにあり,同社に損害を加えることの認識,認容もあったなど判示の事実関係の下では,特別背任罪における図利目的はもとより加害目的をも認めることができる。