甲社の絵画等購入担当者である乙らが,丙の依頼を受けて,甲社をして丙が支配する丁社から多数の絵画等を著しく不当な高額で購入させ,甲社に損害を生じさせた場合において,その取引の中心となった甲と丙の間に,それぞれが支配する会社の経営がひっ迫した状況にある中,互いに無担保で数十億円単位の融資をし合い,各支配に係る会社を維持していた関係があり,丙がそのような関係を利用して前記絵画等の取引を成立させたとみることができるなど判示の事情の下では,丙は,乙らの特別背任行為について共同加功をしたということができる。
会社の絵画等購入担当者の特別背任行為につき同社に絵画等を売却した会社の支配者が共同正犯とされた事例
商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項,刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)60条,刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)65条,刑法(平成3年法律第31号による改正前のもの)247条
判旨
商社の役員らが、特定の業者を不当に優遇し、時価を大幅に超える高額な価格で絵画を買い取らせる取引を行った行為は、会社に損害を与える目的または第三者に利益を図る目的による任務違背行為にあたり、特別背任罪が成立する。
問題の所在(論点)
商社の役員が、特定の第三者の利益を図るために、客観的な時価を著しく超える高価格で資産を買い取らせる行為が、特別背任罪における「任務違背行為」および「図利目的」に該当するか。
規範
特別背任罪(商法旧481条1項、現行会社法960条1項)が成立するためには、①自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的(図利加害目的)をもって、②その任務に背く行為(任務違背行為)をし、③当該株式会社に財産上の損害を加えることが必要である。取引価格が客観的な適正価格を著しく逸脱し、合理的根拠のない高値で買取りを決定することは、裁量の範囲を逸脱した任務違背にあたる。
重要事実
事件番号: 平成14(あ)1431 / 裁判年月日: 平成17年10月7日 / 結論: 棄却
商社の代表取締役社長がその任務に違背して巨額の融資を行った場合において,融資実行の動機は同社の利益よりも自己らの利益を図ることにあり,同社に損害を加えることの認識,認容もあったなど判示の事実関係の下では,特別背任罪における図利目的はもとより加害目的をも認めることができる。
総合商社イトマンの代表取締役社長Aおよび常務取締役B(被告人ら)は、不動産管理業者C(イトマンの資金繰りに協力的な立場)の利益を図る目的で、Cが所有する絵画等211点を、専門家による適正な鑑定評価を経ることなく、当時の客観的な時価(約300億円から500億円程度)を大幅に上回る約630億円で、イトマンの関連会社等に買い取らせた。これによりイトマンに多額の差額相当損害を生じさせた。
あてはめ
被告人らは、イトマンの業務全般を統括し、会社資産を適切に運用すべき任務を有していた。にもかかわらず、Cが希望する売却希望額(約630億円)を無批判に受け入れ、意図的に高値の鑑定評価書を作成させるなどして、実勢価格との差額(約112億円以上)を度外視して取引を成立させた。これは、健全な経営判断の枠内にあるとはいえず、Cらに利益を供与する目的をもってなされた任務違背行為といえる。結果としてイトマンには多額の支払資金に相当する損害が生じている。
結論
被告人らの行為は、特別背任罪の構成要件をすべて満たし、同罪が成立する。
実務上の射程
経営判断の原則が主張される場面でも、客観的合理性を欠く著しい高値買取りや、特定の人物への利益供与を目的とした不透明な取引スキームが存在する場合には、任務違背が肯定されることを示した。会社法上の損害賠償請求(423条1項)における任務懈怠の判断指標としても重要な射程を有する。
事件番号: 平成6(あ)544 / 裁判年月日: 平成9年10月28日 / 結論: 棄却
百貨店の代表取締役は、商品の仕入れに当たり、仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入れに伴う無用な支出を避けるべき任務を負うものであり、特定の業者の利益を図る目的をもって、右任務に背いて右業務を納入業者と百貨店との間に介在させて差益を取得させ、それと同額の損害を百貨店に与えた本件においては、右代表取締役には特別背任罪が成…