正規の国際運転免許証に酷似する文書をその発給権限のない団体Aの名義で作成した行為は,上記文書が,一般人をして,その発給権限を有する団体であるAにより作成された正規の国際運転免許証であると信用させるに足りるものであるなど判示の事実関係の下では,団体Aから上記文書の作成を委託されていたとしても,私文書偽造罪に当たる。
正規の国際運転免許証に酷似する文書をその発給権限のない団体の名義で作成した行為が私文書偽造罪に当たるとされた事例
刑法159条1項
判旨
私文書偽造罪における文書の名義人は、当該文書の社会的信用性を基礎付ける属性を有する主体として解される。したがって、実在する団体から作成委託を受けていても、その団体に国際運転免許証の発給権限がない以上、権限ある団体を名義人とする文書を作成すれば名義人と作成者の人格の同一性を偽ったものとして偽造罪が成立する。
問題の所在(論点)
文書の名義人として表示された実在の団体から作成を委託されていた場合であっても、その団体が文書の内容となる法的権限を有しないときは、名義人と作成者の人格の同一性を偽ったものとして有印私文書偽造罪が成立するか。
規範
私文書偽造罪(刑法159条1項)の本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にある。文書の名義人とは、その文書の記載内容や性質に照らし、当該文書の社会的信用性を基礎付ける主体を指す。したがって、たとえ実在する主体から承諾を得てその名称を用いたとしても、その主体が文書の信用性の根拠となる法的権限を有しない場合、権限を有する主体を装って作成する行為は人格の同一性を偽るものといえる。
重要事実
被告人は、共謀の上、正規の国際運転免許証に酷似した文書(本件文書)を顧客販売目的で作成した。本件文書には「国際旅行連盟」が発給者として表示されていた。被告人は、メキシコに実在する民間団体「国際旅行連盟」から作成委託を受けていたと主張したが、同団体はジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有しておらず、被告人もその事実を認識していた。本件文書の形状・記載内容は、一般人をしてジュネーブ条約に基づく正規の免許証であると信用させるに足りるものであった。
事件番号: 平成9(あ)1227 / 裁判年月日: 平成11年12月20日 / 結論: 棄却
虚偽の氏名等を記載した履歴書及び雇用契約書等を作成行使した行為は、たとえ自己の顔写真がはり付けられ、あるいは各文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、有印私文書偽造、同行使罪に当たる。
あてはめ
本件文書はジュネーブ条約に基づく免許証を模したものであり、その社会的信用性は「同条約に基づく発給権限を有する団体により作成されていること」に基礎を置く。したがって、本件文書の名義人は単なる民間団体の名称ではなく、「発給権限を有する団体としての国際旅行連盟」と解すべきである。実際には国際旅行連盟にそのような権限は存在しない以上、被告人がその名称を用いて権限ある団体を装い文書を作成する行為は、名義人と作成者の人格の同一性を偽るもの(偽造)にほかならない。
結論
被告人が実在団体から委託を受けていたとしても、有印私文書偽造罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、名義人の特定において単なる固有名詞の同一性だけでなく、文書の性質に応じた「属性」を重視する立場を明確にした。実務上は、資格、肩書、権限等が文書の信用性の本質である場合に、これらを偽って作成する行為を偽造として処罰するための有力な根拠となる。答案上は、まず名義人を特定し、名義人と作成者の人格的同一性の有無を論じる際にこの規範を用いる。
事件番号: 昭和44(あ)1421 / 裁判年月日: 昭和45年9月4日 / 結論: 棄却
他人の代表者または代理人として文書を作成する権限のない者が、他人を代表もしくは代理すべき資格、または、普通人をして他人を代表もしくは代理するものと誤信させるに足りるような資格を表示して作成した文書の名義人は、代表もしくは代理された本人であると解するのが相当である。
事件番号: 平成16(あ)955 / 裁判年月日: 平成16年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】株主総会議事録、取締役会議事録、および株式会社変更登記申請書の作成名義人は、個別の取締役や代表取締役個人ではなく、当該会社自体(あるいは株主総会・取締役会という機関)であると解するのが相当である。 第1 事案の概要:被告人は、作成権限がないにもかかわらず、A株式会社の臨時株主総会議事録および同社取…
事件番号: 平成5(あ)135 / 裁判年月日: 平成5年10月5日 / 結論: 棄却
自己の氏名が弁護士甲と同姓同名であることを利用して、「弁護士甲」の名義で弁護士の業務に関連した形式、内容の文書を作成した所為は、たとえ名義人として表示された者の氏名が自己の氏名と同一であったとしても、私文書偽造罪に当たる。
事件番号: 昭和28(あ)1481 / 裁判年月日: 昭和34年6月12日 / 結論: 棄却
行使の目的を以つて、擅に設立中の会社名義の売買契約書を作成したときは私文書偽造罪が成立する。