他人の代表者または代理人として文書を作成する権限のない者が、他人を代表もしくは代理すべき資格、または、普通人をして他人を代表もしくは代理するものと誤信させるに足りるような資格を表示して作成した文書の名義人は、代表もしくは代理された本人であると解するのが相当である。
いわゆる代表名義の文書の名義人
刑法159条
判旨
代表権限がない者が、他人を代表すべき資格等を表示して作成した文書は、代表された本人を名義人と解すべきであり、その資格を冒用して作成した場合は有印私文書偽造罪(刑法159条1項)ではなく、無印私文書偽造罪(同条3項)が成立する。
問題の所在(論点)
代表権限がない者が代表資格を冒用して文書を作成した場合の「名義人」は誰か。また、法人の印章等を用いず代表資格を表示して作成された場合、刑法159条1項と3項のいずれが適用されるべきか。
規範
1. 他人の代表者として文書を作成する権限のない者が、代表資格または普通人をして代表するものと誤信させるに足りる資格を表示して作成した文書は、その名義人は代表された本人(団体等)であると解するのが相当である。2. いわゆる代表名義を冒用して本人名義の文書を作成した場合において、刑法159条1項の「他人の印章もしくは署名を使用して」したとするには、文書自体に当該本人の印章または署名が使用されていなければならない。
重要事実
被告人Aらは、学校法人Bの理事長に選任され、理事会議事録の作成権限を付与する旨の決議がなされていないにもかかわらず、同行使の目的で「理事会決議録」と題する文書を作成した。同文書にはAが理事長に選任された旨が記載され、末尾に「理事録署名人A」と記してAの印を押したが、学校法人B自体の印章や署名は使用されていなかった。
事件番号: 平成14(あ)1164 / 裁判年月日: 平成15年10月6日 / 結論: 棄却
正規の国際運転免許証に酷似する文書をその発給権限のない団体Aの名義で作成した行為は,上記文書が,一般人をして,その発給権限を有する団体であるAにより作成された正規の国際運転免許証であると信用させるに足りるものであるなど判示の事実関係の下では,団体Aから上記文書の作成を委託されていたとしても,私文書偽造罪に当たる。
あてはめ
1. 本件「理事会決議録」は、その内容体裁から学校法人Bの議事録として作成されたと認められ、「理事録署名人」という記載は普通人をして同法人を代表すると誤信させるに足りる資格表示である。したがって、名義人は本人である「学校法人B」となる。2. しかし、当該文書には学校法人Bの印章や署名が使用された証跡はなく、署名人の資格を冒用した被告人A個人の印章が押されているにすぎない。法人の印章等の使用がない以上、1項の「他人の印章もしくは署名を使用」したとは認められない。
結論
代表資格を冒用して作成された文書の名義人は代表された本人であるが、本人の印章・署名がない場合は無印私文書偽造罪(刑法159条3項)が成立する。
実務上の射程
代表名義冒用の場合に、名義人を代理人個人ではなく「本人(法人等)」とする判断枠組みは、文書の公共的信頼(誰の意思表示として流通するか)を重視する偽造罪の本質から実務上定着している。1項と3項の区別は「物理的な印章等の有無」による形式的な区別であることを示している。
事件番号: 平成16(あ)955 / 裁判年月日: 平成16年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】株主総会議事録、取締役会議事録、および株式会社変更登記申請書の作成名義人は、個別の取締役や代表取締役個人ではなく、当該会社自体(あるいは株主総会・取締役会という機関)であると解するのが相当である。 第1 事案の概要:被告人は、作成権限がないにもかかわらず、A株式会社の臨時株主総会議事録および同社取…
事件番号: 昭和23(れ)676 / 裁判年月日: 昭和23年10月26日 / 結論: 棄却
架空の者を代表者として、実在する会社名義の契約書及び領収書を作成する行為は、私文書偽造罪を構成する。
事件番号: 昭和28(あ)1481 / 裁判年月日: 昭和34年6月12日 / 結論: 棄却
行使の目的を以つて、擅に設立中の会社名義の売買契約書を作成したときは私文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和40(あ)12 / 裁判年月日: 昭和41年5月26日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】刑法155条1項の「公務所の署名」の有無については、文書の形式的外観から客観的に判断すべきであり、公務所の名称の記載等がない文書については、有印公文書としての成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、公務上の文書である「昭和二五年度支出負担行為簿」に虚偽の記入をし、これを行使した…