判旨
刑法155条1項の「公務所の署名」の有無については、文書の形式的外観から客観的に判断すべきであり、公務所の名称の記載等がない文書については、有印公文書としての成立を認めることはできない。
問題の所在(論点)
刑法155条1項、156条、158条1項に規定される「有印」公文書(公務所の署名がある文書)の該当性を判断するにあたり、公務所名の記載がない文書について有印公文書作成罪等の成立が認められるか。
規範
刑法155条1項及び156条にいう「公務所若しくは公務員の印影若しくは署名を使用して」または「有印」の公文書にあたるか否かは、当該文書の形式的外観に基づき、公務所または公務員の署名(名称の表示を含む)が客観的に存在するかによって決せられる。文書の表紙や内容から公務所の署名が認められない場合には、有印公文書としての適格を欠く。
重要事実
被告人らは、公務上の文書である「昭和二五年度支出負担行為簿」に虚偽の記入をし、これを行使したとして有印虚偽公文書作成罪及び同行使罪で起訴された。しかし、当該文書の表紙等には「大阪刑務所」という公務所の名称の記載が見当たらず、その他、公務所の署名があることを認めるに足りる証拠も存在しなかった。
あてはめ
本件文書である支出負担行為簿を確認するに、表紙等に「大阪刑務所」という具体的な公務所名の記載(署名)が存しない。有印虚偽公文書作成罪等の成立には、公務所の印影または署名が外形的に備わっていることが必要であるところ、本件文書は形式上「公務所の署名がある文書」とは認められない。したがって、本件行為を有印の罪として処断した原判決は、事実誤認または法令の適用誤りがあるといえる。
結論
本件文書に公務所の署名が認められない以上、有印虚偽公文書作成罪及び同行使罪は成立せず、原判決を破棄し差し戻すべきである。
事件番号: 昭和40(あ)2687 / 裁判年月日: 昭和41年4月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】戸籍の作成行為について、被告人らに行使の目的がない場合には、公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)等は成立しない。 第1 事案の概要:被告人および相被告人Aは、不実の内容を含む原戸籍を作成する行為に及んだが、当該戸籍の作成行為については、被告人らにおいて「行使の目的」が存在していなかった。原判…
実務上の射程
公文書偽造罪(作成罪)における「有印・無印」の区別に関する基本判例である。答案上では、公務所名の表示を「署名」に含めて解釈しつつ、その存否は外観から厳格に判断すべきであることを示す際に活用する。本件のように署名・印影が欠ける場合は、155条3項(無印公文書偽造罪)や156条(無印虚偽公文書作成罪)の成否が検討対象となる。
事件番号: 昭和29(あ)3426 / 裁判年月日: 昭和32年11月29日 / 結論: 棄却
所論指示書と題する文書の内容文言が、たとえ被告人以外の者の手で既に記載されてあつた場合であつても、それが無権限者によつてなされたものであり、且つa地方事務所長たる記名職印が施されてはじめて効用ある文書として完成するものであると認められる以上、行使の目的をもつて右文言の書面に無権限に右事務所長名の記名ゴム印及びその職印を…
事件番号: 昭和25(れ)1442 / 裁判年月日: 昭和26年8月28日 / 結論: 棄却
行使の目的を以て公文書の形式を偽り、一般人をして公務所若しくは公務員がその権限内において作成したものであると信ぜしめるに足る形式外観を具える文書を作成し、以て公文書の信用を害する危険を生ぜしめたときは他の記載事項欄が空白であつても公文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和32(あ)1425 / 裁判年月日: 昭和35年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】虚偽公文書作成罪(刑法156条)等における「公文書」とは、公務員がその職務上作成すべき文書を指し、その形式や名称の如何を問わず、実質的に公務員の職務権限に基づき作成されたものであればこれに該当する。 第1 事案の概要:本件は、被告人らが共謀し、公文書を偽造(虚偽記載)し、これを行使したとして虚偽公…
事件番号: 昭和38(あ)907 / 裁判年月日: 昭和39年8月28日 / 結論: 破棄差戻
刑法第一五五条第一項にいわゆる公務所または公務員の作るべき文書とは、公務所又は公務員が印章若しくは署名を使用しその権限内において職務執行上作成すべき文書を汎称し、その職務執行の方法範囲が法令に基づくと内規又は慣例によるとを問わないものと解すべきである(昭和一二年七月五日大審院判決、刑集一六巻一一七六頁・明治四五年四月一…