所論指示書と題する文書の内容文言が、たとえ被告人以外の者の手で既に記載されてあつた場合であつても、それが無権限者によつてなされたものであり、且つa地方事務所長たる記名職印が施されてはじめて効用ある文書として完成するものであると認められる以上、行使の目的をもつて右文言の書面に無権限に右事務所長名の記名ゴム印及びその職印を押印するときは、右文言と右押印とが相結合してここに該文書全体につき刑法一五五条の公文書偽造罪を構成するものと解すべきである。
公文書偽造罪の成立を認められる一事例
刑法155条1項
判旨
無権限者が公務員等の記名・職印を押印して公文書を完成させる行為は、たとえ本文が他人の手で記載済みであっても刑法155条の公文書偽造罪を構成し、また当該文書が一般人に真正なものと信じさせる形式を具備していれば、作成名義者の職務権限内であるか否かを問わず同罪が成立する。
問題の所在(論点)
1. 他人が作成した書面の本文に、無権限で公務員の記名・職印を押印する行為が、刑法155条の公文書偽造罪を構成するか、あるいは165条2項の印章不正使用罪にとどまるか。 2. 作成名義者たる公務員に当該文書を作成する実質的な権限がない場合であっても、公文書偽造罪が成立するか。
規範
1. 公文書偽造罪における「偽造」とは、作成権限のない者が他人名義の文書を作成することをいう。既に本文が他人の手で記載されていたとしても、無権限者が記名・職印を押印することで初めて効用ある文書として完成させる場合は、その押印行為により文書全体について偽造が成立する。 2. 刑法155条にいう公文書とは、一般人をして公務所または公務員の職務権限内において作成されたものと信じさせるに足りる形式外観を備えていれば足り、作成名義者たる公務員に実質的な作成権限があることは要しない。
重要事実
事件番号: 昭和32(あ)1425 / 裁判年月日: 昭和35年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】虚偽公文書作成罪(刑法156条)等における「公文書」とは、公務員がその職務上作成すべき文書を指し、その形式や名称の如何を問わず、実質的に公務員の職務権限に基づき作成されたものであればこれに該当する。 第1 事案の概要:本件は、被告人らが共謀し、公文書を偽造(虚偽記載)し、これを行使したとして虚偽公…
被告人は、行使の目的をもって、「指示書」と題する文書の書面に、無権限でa地方事務所長名の記名ゴム印およびその職印を押印した。当該文書の本文は被告人以外の者の手によって既に記載されていたが、記名・職印が施されて初めて効用ある文書として完成する性質のものであった。また、被告人には当該文書を作成する代理権限は存在しなかった。
あてはめ
1. 本件「指示書」は、記名・職印が施されてはじめて効用ある文書として完成するものである。被告人は無権限でこれらを押印しており、本文と押印が結合して一つの公文書を創出したといえるため、単なる印章の不正使用にとどまらず、文書全体についての偽造罪が成立する。 2. 本件文書は、a地方事務所長の職務権限上作成し得べき文書としての外観を備えており、一般人が真正な公文書と信じるに足りる形式を具備している。したがって、名義人の実質的な権限の有無や名義登録等における実効性の有無にかかわらず、刑法155条の公文書に該当する。
結論
被告人の行為は刑法155条の公文書偽造罪を構成する。作成名義人の職務権限や、本文が既成であった事実は、公文書偽造罪の成立を妨げない。
実務上の射程
公文書偽造罪の客体概念について、実質的な作成権限よりも「一般人の信頼」を保護法益とする形式的外観を重視する判例である。答案上は、印章不正使用罪との区別において「文書の完成・効力発生」の成否を論じる際や、公務員の権限外の文書であっても「一般人の信頼を害する外観」があれば公文書にあたると論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和33(あ)1735 / 裁判年月日: 昭和34年8月28日 / 結論: 棄却
A鉄道管理局B電力区助役として区長を補佐する傍ら同管理局から出納員もしくは事務助役出納員として指命され、部内職員の給料、族費等の交付、保管等対内的な出納事務には従事するが、同電力区助役もしくは右出納員名義をもつて対外部関係に関する公文書を作成すべき一般的職務権限を有しない被告人が、行使の目的をもつて内容虚偽の電柱代金代…
事件番号: 昭和38(あ)907 / 裁判年月日: 昭和39年8月28日 / 結論: 破棄差戻
刑法第一五五条第一項にいわゆる公務所または公務員の作るべき文書とは、公務所又は公務員が印章若しくは署名を使用しその権限内において職務執行上作成すべき文書を汎称し、その職務執行の方法範囲が法令に基づくと内規又は慣例によるとを問わないものと解すべきである(昭和一二年七月五日大審院判決、刑集一六巻一一七六頁・明治四五年四月一…
事件番号: 昭和40(あ)12 / 裁判年月日: 昭和41年5月26日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】刑法155条1項の「公務所の署名」の有無については、文書の形式的外観から客観的に判断すべきであり、公務所の名称の記載等がない文書については、有印公文書としての成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、公務上の文書である「昭和二五年度支出負担行為簿」に虚偽の記入をし、これを行使した…
事件番号: 昭和29(あ)3851 / 裁判年月日: 昭和32年10月4日 / 結論: 棄却
作成権限者たる公務員を補佐して公文書の起案を担当する公務員が、行使の目的で内容虚偽の公文書を起案し、情を知らない右上司を利用してこれを完成した場合は、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。