作成権限者たる公務員を補佐して公文書の起案を担当する公務員が、行使の目的で内容虚偽の公文書を起案し、情を知らない右上司を利用してこれを完成した場合は、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。
補助者たる公務員が情を知らない上司を利用して虚偽の公文書を作成した場合の罪責
刑法156条,刑法155条,刑法157条
判旨
公文書の作成権限を有する公務員を補助して起案を担当する職員が、作成権限者を欺罔して内容虚偽の公文書を完成させた場合、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。作成権限のない公務員であっても、その職務上の地位を利用して権限者を道具として利用したといえるからである。
問題の所在(論点)
公文書の作成権限を有しない補助公務員が、作成権限を有する公務員を道具として利用して内容虚偽の公文書を作成させた場合に、刑法156条の虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立するか。
規範
刑法156条の虚偽公文書作成罪は公務員を主体とする身分犯であるが、作成権限者の職務を補佐して起案を担当する職員が、その地位を利用し、行使の目的をもって職務上虚偽の内容を起案し、これを情を知らない上司(作成権限者)に提出して誤信させ、署名捺印等により文書を完成させた場合には、同罪の間接正犯が成立する。
重要事実
宮城県栗原地方事務所の建築係職員であった被告人は、地方事務所長(作成権限者)の下で建築申請書類の審査や文書の起案等の職務を担当していた。被告人は、実際には未着工であった住宅について、建前や屋根葺等が完了したとする虚偽の報告を記載した現場審査合格書を起案した。これを情を知らない所長に提出し、内容が真実であると誤信させて記名捺印をさせ、虚偽の公文書を作成させた。
事件番号: 昭和29(あ)466 / 裁判年月日: 昭和31年7月13日 / 結論: 棄却
原判決において、京都市a区の役所の外国人登録事務の一係員たる被告人Aが、外国人登録証明を受ける資格のない者に同証明書を交付する目的で、不正の同証明書交付申請を故らに正当のものとして受理した上、情を知らない他の同係員の手により同区長作成名義の同証明書を調製せしめ、かつ同区長の職印を冒捺させて、同証明書を偽造した事実を認定…
あてはめ
被告人は、建築係として建築審査及び文書起案の職務を担当する公務員であり、作成権限者である所長を補助する立場にあった。被告人は、この職務上の地位を悪用し、真実を確認する立場にある所長に対し、実態とは異なる虚偽の報告を含む起案書を提出した。これにより、情を知らない所長を単なる道具として利用し、自らの意図通りに内容虚偽の公文書を完成させたといえる。したがって、被告人には虚偽公文書作成の実行行為性が認められる。
結論
被告人には虚偽公文書作成罪(刑法156条)の間接正犯が成立し、これを行使した点について偽造公文書行使罪(158条)も成立する。原判決の判断は正当である。
実務上の射程
補助公務員による間接正犯の成立を認めた重要判例である。答案上は、身分なき者による間接正犯の成否として論じるのではなく、作成権限のない公務員が権限者を利用する「公務員による間接正犯」の枠組みで論じるべきである。また、一般人が公務員を利用する場合は公正証書原本不実記載罪(157条)の問題となるが、本件は補助者という「内部の者」による犯行であるため、156条が直接適用される点に注意が必要である。
事件番号: 昭和26(あ)1335 / 裁判年月日: 昭和28年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員が架空の工事を捏造し、虚偽の人夫賃請求書を提出して県から金員を騙取した場合、それが予算の範囲内であっても、正当な権利行使とはいえず詐欺罪が成立する。また、職務権限に関連して金品を受領した場合は、社交的儀礼の範囲を超えない限り収賄罪が成立する。 第1 事案の概要:富山県B改良事務所長である被告…
事件番号: 昭和33(あ)7 / 裁判年月日: 昭和33年7月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員でない者が公務員と共謀して虚偽の公文書を作成した場合、刑法65条の適用により虚偽公文書作成罪の共同正犯が成立する。また、一部に真実が含まれていても、災害のない地区を災害地として含める等の過大記載があれば、公文書の内容は虚偽にあたる。 第1 事案の概要:被告人は村の助役であったが、村長と共謀し…
事件番号: 昭和29(あ)3426 / 裁判年月日: 昭和32年11月29日 / 結論: 棄却
所論指示書と題する文書の内容文言が、たとえ被告人以外の者の手で既に記載されてあつた場合であつても、それが無権限者によつてなされたものであり、且つa地方事務所長たる記名職印が施されてはじめて効用ある文書として完成するものであると認められる以上、行使の目的をもつて右文言の書面に無権限に右事務所長名の記名ゴム印及びその職印を…
事件番号: 昭和30(あ)3708 / 裁判年月日: 昭和33年4月11日 / 結論: 棄却
村長がその名義の内容虚偽の公文書を作成した場合は、それが専ら第三者の利をはかる等不法な意思に出でその職務権限の乱用と認められる場合であつても、刑法第一五六条の罪が成立し、同法第一五五条の罪が成立するものではない