判旨
公務員でない者が公務員と共謀して虚偽の公文書を作成した場合、刑法65条の適用により虚偽公文書作成罪の共同正犯が成立する。また、一部に真実が含まれていても、災害のない地区を災害地として含める等の過大記載があれば、公文書の内容は虚偽にあたる。
問題の所在(論点)
1. 作成権限のない助役が、村長と共謀して虚偽の申請書を作成した場合、虚偽公文書作成罪の共同正犯が成立するか(刑法65条の適用)。 2. 災害の事実がある地区とない地区を混在させ、一括して申請した場合に、公文書の「虚偽」にあたるか。
規範
1. 虚偽公文書作成罪(刑法156条)は、作成権限を有する公務員という身分を必要とする真正身分犯である。身分なき者が身分ある者と共謀して実行した場合には、刑法65条1項により、身分なき者にも共同正犯が成立する。 2. 公文書の内容が虚偽であるか否かは、記載内容全体が客観的事実と合致するかで判断され、一部に真実が含まれていても、事実でない事項を付け加えて過大に記載(いわゆる水増し)した場合は、内容虚偽の公文書にあたる。
重要事実
被告人は村の助役であったが、村長と共謀し、実際には災害を受けていないb地区およびc地区を、災害を受けたa地区と一括して補助金交付申請書に記載し、虚偽の申請を行って補助金を交付させた。被告人側は、被告人が村長ではなく作成権限がないこと、およびa地区については実際に災害が発生している以上は内容虚偽ではないことを主張して上告した。
あてはめ
1. 本件申請書の作成権限は村長にあるため、本罪は身分によって成立する犯罪であるが、被告人は村長と共謀して犯行に及んでおり、刑法65条の規定に照らせば、身分なき被告人にも虚偽公文書作成罪が成立することは明らかである。 2. 被災していない地区を被災地として含めて過大に記載する行為は、いわゆる「水増し」であり、その実質において内容虚偽であることは明白である。したがって、一部に真実(a地区の被災)が含まれていても、文書全体として虚偽公文書にあたる。
結論
被告人には刑法65条1項に基づき虚偽公文書作成罪の共同正犯が成立し、また、過大な水増し記載は内容虚偽にあたるため、同罪および同行使罪、詐欺罪の成立を認めた原判決は妥当である。
事件番号: 昭和30(あ)3708 / 裁判年月日: 昭和33年4月11日 / 結論: 棄却
村長がその名義の内容虚偽の公文書を作成した場合は、それが専ら第三者の利をはかる等不法な意思に出でその職務権限の乱用と認められる場合であつても、刑法第一五六条の罪が成立し、同法第一五五条の罪が成立するものではない
実務上の射程
真正身分犯における非身分者の共犯(刑法65条1項)の典型例として、答案構成において利用できる。また、虚偽公文書作成罪における「虚偽」の意義について、一部に真実があっても重要な部分に水増し等の虚偽があれば足りることを示す際の根拠となる。
事件番号: 昭和33(あ)1735 / 裁判年月日: 昭和34年8月28日 / 結論: 棄却
A鉄道管理局B電力区助役として区長を補佐する傍ら同管理局から出納員もしくは事務助役出納員として指命され、部内職員の給料、族費等の交付、保管等対内的な出納事務には従事するが、同電力区助役もしくは右出納員名義をもつて対外部関係に関する公文書を作成すべき一般的職務権限を有しない被告人が、行使の目的をもつて内容虚偽の電柱代金代…
事件番号: 昭和29(あ)3851 / 裁判年月日: 昭和32年10月4日 / 結論: 棄却
作成権限者たる公務員を補佐して公文書の起案を担当する公務員が、行使の目的で内容虚偽の公文書を起案し、情を知らない右上司を利用してこれを完成した場合は、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。
事件番号: 昭和28(あ)3367 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実在しない架空の公務員名義を用いた文書であっても、一般人が公務員により作成された真正な文書と誤認するに足りる外観を備えている場合には、公文書偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない「A検査員B」という架空の公務員名義を用いて文書を作成し、これを行使した。第一審判決および原…
事件番号: 昭和25(れ)216 / 裁判年月日: 昭和25年11月2日 / 結論: 棄却
原判決が被告人Aの判示虚偽公文書作成の所為に加功した所為に対し、刑法第六五条一項の適用を明示しなかつたことは所論のとおりである。しかし、同条項のごとき総則規定は特にこれが適用を明示しなくとも、これを適用したことを看取し得れば差支ないものといわなければならない。そして原判決は、その判示冒頭において被告人は昭和二一年三月三…