原判決が被告人Aの判示虚偽公文書作成の所為に加功した所為に対し、刑法第六五条一項の適用を明示しなかつたことは所論のとおりである。しかし、同条項のごとき総則規定は特にこれが適用を明示しなくとも、これを適用したことを看取し得れば差支ないものといわなければならない。そして原判決は、その判示冒頭において被告人は昭和二一年三月三〇日退官し爾後判示常任幹事であつたに過ぎないことを判示し刑法第六〇条を適用する等判示全体により自ら同条項を適用処断した趣旨であることを窺い知ることができるから、原判決にはこれを破棄しなければならない擬律不備の違法はないものといわなければならない。
総則規定の適用を明示しない判決と擬律不備の有無
刑法65条1項,旧刑訴法360条1項,旧刑訴法410条19号
判旨
非身分者が身分犯の正犯と共謀して犯罪を実行した場合、刑法65条1項により連帯的共犯として成立するが、判決書において同条項の適用を明示しなくても、判文全体からその適用が看取できれば擬律不備の違法はない。
問題の所在(論点)
非身分者が身分犯の共同正犯として処断される場合に、判決書において刑法65条1項の適用を明示しなかったことは、判決を破棄すべき擬律不備の違法に当たるか。
規範
刑法65条1項のような総則規定は、判決においてその適用を特に明示しなくとも、判決主文や理由、証拠の摘示等の判示全体から、当該規定を適用して処断した趣旨を看取し得るのであれば、法令適用の違法(擬律不備)には当たらない。
重要事実
被告人Aは、県が架空物資を現実に購入・引渡を受けたように装い、公文書を偽造して金員を騙取しようとする計画に加功した。Aは昭和21年3月30日に退官しており、犯行時は公務員の身分を有さず、常任幹事という立場であった。原判決は、Aに刑法60条を適用して共同正犯としての責任を認めたが、非身分者が真正身分犯(虚偽公文書作成罪)に加功した場合に適用されるべき刑法65条1項の適用を明記していなかった。
事件番号: 昭和25(れ)916 / 裁判年月日: 昭和25年11月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】食糧緊急措置令10条の趣旨は、同条所定の行為が刑法の正条に触れる場合は一般法である刑法のみを適用し、そうでない場合にのみ特別法である同条を適用することにある。 第1 事案の概要:被告人が行った行為が、食糧緊急措置令10条(現行法下の同趣旨の規定を含む)所定の行為に該当するとともに、刑法の正条にも触…
あてはめ
原判決は、その判示冒頭において、被告人Aが犯行前に退官しており、犯行当時は単なる常任幹事であったという事実を明確に認定している。その上で、Aを共犯として処断し刑法60条を適用している。このような判示の全体的な文脈によれば、原審がAを非身分者と認識した上で、刑法65条1項を前提として共同正犯の成立を認めた趣旨であることは容易に窺い知ることができる。したがって、条項番号の明示がなくても実質的な法の適用に誤りはないといえる。
結論
判示全体から刑法65条1項を適用した趣旨が看取できる以上、同条の適用を明示しなかったとしても破棄すべき擬律不備の違法はない。上告棄却。
実務上の射程
共犯規定や身分犯の規定等の総則的条項について、判決書での明示を欠くことのみをもって直ちに違法とはならないとする実務上の処理を認めたもの。答案上は、65条1項・2項の区別が問題となる場面などで、結論の妥当性を支える判例として言及し得る。
事件番号: 昭和25(れ)1375 / 裁判年月日: 昭和26年4月27日 / 結論: 破棄自判
一 経済関係罰則の整備に関する法律第一条の規定と対比して見ると、同条は別表甲号に掲げる経済団体の「役員其ノ他ノ職員ハ罰則ノ適用ニ付テハ之ヲ法令ニ依リ公務ニ従事スル職員ト看做ス」旨を規定しているが同第二条には、かかる規定は存在しない。すなわち、以上各規定の趣旨からみれば、右別表甲号、乙号掲記の経済団体の職員はいずれも本来…
事件番号: 昭和24(れ)1496 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 破棄自判
一 その裁判所の事件を審判する権限のない裁判官がその裁判所を構成してした公判手段は、無効であつてその公判調書を事実認定の資料とすることは違法である。旧刑訴法第一二条には「訴訟手続は管轄違ひの理由に因り其の効力を後はず」と規定されているのであるがこの規定は本来裁判権を有する裁判所に事件を分配することを目的とする事物及び土…
事件番号: 昭和33(あ)7 / 裁判年月日: 昭和33年7月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員でない者が公務員と共謀して虚偽の公文書を作成した場合、刑法65条の適用により虚偽公文書作成罪の共同正犯が成立する。また、一部に真実が含まれていても、災害のない地区を災害地として含める等の過大記載があれば、公文書の内容は虚偽にあたる。 第1 事案の概要:被告人は村の助役であったが、村長と共謀し…
事件番号: 昭和27(あ)6146 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯が成立するためには、事前の打合せや意思の連絡が必要であり、これらが認められない場合には単独犯として処理されるべきである。 第1 事案の概要:上告人は、共犯者が存在する共犯事件であると主張して上告したが、原審(または記録上)では、当該事件において当事者間での事前の打合せ等は認められず、そ…