判旨
食糧緊急措置令10条の趣旨は、同条所定の行為が刑法の正条に触れる場合は一般法である刑法のみを適用し、そうでない場合にのみ特別法である同条を適用することにある。
問題の所在(論点)
食糧緊急措置令10条所定の行為が刑法の正条に触れる場合、刑法と当該命令のいずれを適用すべきか。一般法(刑法)と特別法(命令)の適用関係が問題となる。
規範
法条競合が生じる場合において、特別法の規定が「刑法の正条に触れるときは刑法により、然らざるときは本条による」旨を定めているときは、一般法たる刑法の構成要件に該当する限り、一般法のみを適用し特別法は適用しない。
重要事実
被告人が行った行為が、食糧緊急措置令10条(現行法下の同趣旨の規定を含む)所定の行為に該当するとともに、刑法の正条にも触れるものであった事案。原判決は刑法を適用して処断したが、弁護人はこれを擬律錯誤であるとして上告した。
あてはめ
食糧緊急措置令10条の規定によれば、同条所定の行為が刑法の正条に触れるときは刑法によると明記されている。本件行為は刑法の正条に触れるものである以上、一般法たる刑法を適用すべきであり、特別法たる同条を重ねて適用したり、同条を優先させたりする必要はない。したがって、刑法を適用した原判決に擬律錯誤の違法は認められない。
結論
被告人の行為が刑法の正条に触れる以上、一般法たる刑法のみを適用すべきであり、原判決の擬律は正当である。
実務上の射程
特別法に「刑法の正条に触れるときは刑法による」旨の注意規定(いわゆる「サボタージュ規定」等に類する法形式)がある場合の法条競合の処理を示す。答案上は、特別法が一般法の適用を排除しない明文があることを根拠に、刑法各則の成否を論じれば足りることを説明する際に用いる。
事件番号: 昭和26(れ)1069 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】米麦の不正受配行為について、食糧緊急措置令に罰則がある場合でも、刑法に正条があるときは詐欺罪が成立し、同罪をもって処断される。 第1 事案の概要:被告人が米麦の不正受配を行った事案。当時施行されていた食糧緊急措置令には罰則規定が存在したが、同令10条には刑法に正条がある場合の適用関係に関する規定が…
事件番号: 昭和25(あ)1622 / 裁判年月日: 昭和27年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不正な手段で係員を欺罔して主要食糧の配給を受ける行為は、食糧緊急措置令違反にとどまらず、刑法上の詐欺罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が、不正な手段を用いて係員を欺罔し、主要食糧の配給を受けた。これに対し、弁護側は刑法上の詐欺罪(246条)ではなく、食糧緊急措置令10条を適用すべきであると主…
事件番号: 昭和25(れ)216 / 裁判年月日: 昭和25年11月2日 / 結論: 棄却
原判決が被告人Aの判示虚偽公文書作成の所為に加功した所為に対し、刑法第六五条一項の適用を明示しなかつたことは所論のとおりである。しかし、同条項のごとき総則規定は特にこれが適用を明示しなくとも、これを適用したことを看取し得れば差支ないものといわなければならない。そして原判決は、その判示冒頭において被告人は昭和二一年三月三…
事件番号: 昭和23(れ)329 / 裁判年月日: 昭和23年7月15日 / 結論: 棄却
論旨は本件被告人の所爲は詐欺罪を構成せず食糧緊急措置令第一〇條本文を以て律すべきものであるというのである。しかし被告人の本件所爲が刑法第二四六條第一項の詐欺罪を構成するものであることは前説示の通りであつて、たとえ一面右措置令第一〇條本文所定の一場合にも該當するとしても、同條の末尾には「其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル…