論旨は本件被告人の所爲は詐欺罪を構成せず食糧緊急措置令第一〇條本文を以て律すべきものであるというのである。しかし被告人の本件所爲が刑法第二四六條第一項の詐欺罪を構成するものであることは前説示の通りであつて、たとえ一面右措置令第一〇條本文所定の一場合にも該當するとしても、同條の末尾には「其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル」と明規されているのであるから、原審が前示刑法詐欺罪の規定を適用し所斷したのは正當である。
食糧の不正受配についての詐欺罪の成立と食糧緊急措置令第一〇條
刑法264條,食糧緊急措置令10條
判旨
特別配給の資格がない者が、他名義の購入票を提出して配給担当者を誤信させ、精米の交付を受けた場合、刑法上の詐欺罪が成立する。また、特別法に罰則規定があっても、刑法に正条がある旨の規定がある限り、刑法の詐欺罪を適用することは正当である。
問題の所在(論点)
本来受配資格のない者が、他名義の特別飯米購入票を提示して精米の交付を受ける行為が、刑法246条1項の詐欺罪を構成するか。また、食糧緊急措置令等の特別法が存在する場合に刑法を適用できるか。
規範
1. 詐欺罪(刑法246条1項)における「欺罔」とは、交付の判断の基礎となる重要な事項について虚偽の事実を告知し、相手方を錯誤に陥らせる行為をいう。2. 他人名義の受配証等を提示して、あたかも自身が正当な受給権者であるかのように装う行為は、交付担当者に対する欺罔行為にあたる。3. 特別法と刑法の関係において、特別法側に「刑法に正条あるものは刑法による」との規定がある場合、刑法の規定を優先して適用することができる。
重要事実
被告人Aは、村役場の配給係として特別飯米購入票を発行できる立場を利用し、受配資格のない知人らのために村長名義の購入票を偽造した。被告人Cは、Aからこれを受領し、本来は受配者本人でなければ配給を受けられないものであることを知りながら、配給所係員に対し、自身が配給を受けられる者であるかのように装って購入票を提示した。これにより、係員を誤信させて精米合計301kgを騙取した。
事件番号: 昭和26(れ)1069 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】米麦の不正受配行為について、食糧緊急措置令に罰則がある場合でも、刑法に正条があるときは詐欺罪が成立し、同罪をもって処断される。 第1 事案の概要:被告人が米麦の不正受配を行った事案。当時施行されていた食糧緊急措置令には罰則規定が存在したが、同令10条には刑法に正条がある場合の適用関係に関する規定が…
あてはめ
被告人Cは、特別飯米購入票に記載された受配者本人ではないにもかかわらず、配給所の係員に対し、あたかも自分がその購入票によって正当に配給を受けられる資格があるかのように振る舞い、購入票を差し出している。これは、配給の可否を判断する係員に対する「欺罔行為」にあたり、係員はその欺罔によって受配資格があるものと「錯誤」に陥り、精米という「財物」を交付したといえる。たとえ行使罪について偽造の認識が否定されたとしても、受配資格がないのに欺罔手段を用いて財物を取得した事実に変わりはなく、詐欺罪の構成要件を充足する。さらに、本件行為が食糧緊急措置令に該当するとしても、同令10条に刑法優先の規定がある以上、刑法の適用に違法はない。
結論
被告人の行為は刑法246条1項の詐欺罪を構成し、特別法の存在は刑法の適用を妨げない。上告棄却。
実務上の射程
他人名義の証明書等を提示して、本来受けられないサービスや物品の提供を受ける行為が詐欺罪を構成することを明示した事例。答案上は、受取人の「同一性」が交付判断の重要事項となる場面での欺罔行為の認定、および特別法(行政罰等)との罪数関係・適用優先順位が問題となる場面で活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)2535 / 裁判年月日: 昭和25年2月24日 / 結論: 棄却
架空人名義の主要食糧配給通帳をその名義人が實在するもののように装い配給所にて提出して主要食糧の配給を受けたときは詐欺罪が成立し食糧緊急措置令第一〇條本文の適用はない。
事件番号: 昭和22(れ)60 / 裁判年月日: 昭和23年6月9日 / 結論: 棄却
一 たとえ公定代金を支拂つたとしても、僞造の特配指令書を眞正なものと詐り、相手方を誤信させて、眞正な指令書の所持人でなければ買受けることのできない酒類を買取つた場合は、詐欺罪が成立する。 二 論旨の如く被告人は昭和二二年一月二〇日勾留せられてより同年二月二六日保釋となるまで三八日間拘禁されたことは明らかであるが(勾引さ…
事件番号: 昭和24(れ)822 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
中京区役所第四駐在員事務所主任ではなく単なる同事務所の事務員であつて主任を補助して事務を執つている者にすぎない者は転出証明書を作成交付する権限のない者であるから同人が擅に行使の目的を以つて内容虚偽の転出証明書を作成したことは刑法一五五条の公文書偽造であつて、同法一五六条の犯罪にはならない。
事件番号: 昭和24(れ)3033 / 裁判年月日: 昭和25年4月25日 / 結論: 棄却
たとい公定代金を支拂つたとしても、婚禮用酒又は葬儀用酒の僞造特配證明書を眞正なものと詐り、相手方を誤信させて眞正な特配證明書の所持人でなければ買受けることのできない清酒を買取つた場合に詐欺罪の成立すること、當裁判所大法廷判例の趣旨に徴して明かである。(昭和二二年(れ)第六〇號同二三年六月九日言渡大法廷判決參照)。