一 たとえ公定代金を支拂つたとしても、僞造の特配指令書を眞正なものと詐り、相手方を誤信させて、眞正な指令書の所持人でなければ買受けることのできない酒類を買取つた場合は、詐欺罪が成立する。 二 論旨の如く被告人は昭和二二年一月二〇日勾留せられてより同年二月二六日保釋となるまで三八日間拘禁されたことは明らかであるが(勾引されてより勾留されるまでの間拘禁されたという事實は記録上明白でない)本件は一審における共同被告人は五人であり、犯罪行爲は昭和二一年七月三日頃より同年一一月四日頃迄の間に百回以上も連續して行われた複雑な事件であり、公判の準備などにも相當の日時を要するものといわなければならないから不當に長い拘禁の後の自白ということは當を得ない。
一 公定代金の支拂と詐欺罪の成立 二 三八日間の拘禁と憲法第三八條第二項
刑法246條1項,憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項
判旨
公定代金を支払った場合であっても、真正な特配指令書を提示しなければ買い受けることができない物品を、偽造の指令書を用いて欺罔し取得したときは、詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
配給制度下において、公定代金を支払って物品を取得した場合であっても、偽造の配給指令書を用いて相手方を欺いた行為に詐欺罪が成立するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)の財産的損害は、形式的な経済的価値の喪失だけでなく、欺罔行為によって本来受けることができない給付を受けた事実をもって肯定される。代価の支払があったとしても、当該物品を取得するための法的な資格や条件を欠いている場合に、これを偽って取得したときは、同罪の成立を妨げない。
重要事実
被告人は、偽造された特配指令書を真正なものと装い、酒類販売会社および配給統制会社の係員を欺いた。当時、日本酒および麦酒は配給制度下にあり、真正な特配指令書を提出しなければ買い受けることができない物品であった。被告人は、これら偽造の指令書を提示して係員を誤信させ、公定代金を支払った上で当該酒類を買い受けた。
事件番号: 昭和24(れ)3033 / 裁判年月日: 昭和25年4月25日 / 結論: 棄却
たとい公定代金を支拂つたとしても、婚禮用酒又は葬儀用酒の僞造特配證明書を眞正なものと詐り、相手方を誤信させて眞正な特配證明書の所持人でなければ買受けることのできない清酒を買取つた場合に詐欺罪の成立すること、當裁判所大法廷判例の趣旨に徴して明かである。(昭和二二年(れ)第六〇號同二三年六月九日言渡大法廷判決參照)。
あてはめ
本件において、被告人が取得した日本酒および麦酒は、真正な特配指令書を持つ者のみが買い受けることができる制限物資であった。被告人は偽造の指令書を提示して係員を欺いており、この欺罔行為がなければ係員は酒類を交付することはなかったといえる。したがって、たとえ公定代金という対価を支払っていたとしても、本来取得資格のない物品を欺罔によって取得した以上、交付の判断の基礎となる重要な事実を偽ったものとして、詐欺罪が成立すると解される。
結論
公定代金を支払ったとしても、真正な指令書を欠く者が偽造の指令書を用いて物品を取得した以上、詐欺罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、詐欺罪における『損害』の概念が単なる収支の差額(経済的差額説)に限定されないことを示す。答案上は、対価を支払っている事例でも、相手方が『その属性や資格があればこそ交付した』という交付の目的を重視する文脈(実質的個別財産説的アプローチ)で、財産的損害の有無を論じる際の論拠として利用できる。
事件番号: 昭和24(れ)822 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
中京区役所第四駐在員事務所主任ではなく単なる同事務所の事務員であつて主任を補助して事務を執つている者にすぎない者は転出証明書を作成交付する権限のない者であるから同人が擅に行使の目的を以つて内容虚偽の転出証明書を作成したことは刑法一五五条の公文書偽造であつて、同法一五六条の犯罪にはならない。
事件番号: 昭和23(れ)329 / 裁判年月日: 昭和23年7月15日 / 結論: 棄却
論旨は本件被告人の所爲は詐欺罪を構成せず食糧緊急措置令第一〇條本文を以て律すべきものであるというのである。しかし被告人の本件所爲が刑法第二四六條第一項の詐欺罪を構成するものであることは前説示の通りであつて、たとえ一面右措置令第一〇條本文所定の一場合にも該當するとしても、同條の末尾には「其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル…
事件番号: 昭和23(れ)1490 / 裁判年月日: 昭和24年2月15日 / 結論: 棄却
配給主食糧は正式の通帳なくては配給所の係員はこれを交付することは許されないものである。かかる物資を正式の通帳を所持する如く装い、これを受領すべき正當の理由がないに拘はらず、配給所の係員を欺いて交付させ受領した以上、刑法第二四六條第一項の詐欺罪が成立したものというに充分である。金銭的計算關係において自己が不當の利益を得、…
事件番号: 昭和24(れ)1603 / 裁判年月日: 昭和24年11月17日 / 結論: 棄却
所論「家庭用主食購入通帳」は、一個人の所有權の容体となるべき有体物であるから、刑條にいわゆる財物にあたるものといわなければならない。從つて該通帳が本件被告人の配給物資を騙取せんがための手段であり、道具であるに過ぎなかつたとしても、詐欺罪の成立を妨げる理由はない。されば原審が被告人の所爲に對し食糧緊急措置令第一〇又は刑法…