配給主食糧は正式の通帳なくては配給所の係員はこれを交付することは許されないものである。かかる物資を正式の通帳を所持する如く装い、これを受領すべき正當の理由がないに拘はらず、配給所の係員を欺いて交付させ受領した以上、刑法第二四六條第一項の詐欺罪が成立したものというに充分である。金銭的計算關係において自己が不當の利益を得、若しくは相手方が不當の損害を蒙ることは右第一項の詐欺罪成立の要件ではない(配給物資は正規に割當てられた分量以外は受取ることを許されないものである、これを欺罔手段によつて割當量以上に受領することは不當の利益といい得ることも勿論である)。
正式の通帳なくして配給主食糧を受領することと詐欺罪の成立
刑法246條
判旨
不正に入手した配給通帳を提示して係員を欺き、配給物資を交付させた場合、金銭的計算関係において不当な損害が生じていなくとも詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
詐欺罪(刑法246条1項)における財産上の損害の意義。特に対価(代金)の支払いや経済的等価性が保たれている場合であっても、交付の適法性や目的の不達を理由に詐欺罪が成立するか。
規範
刑法246条1項の詐欺罪成立には、金銭的計算関係において自己が不当な利益を得、または相手方が不当な損害を蒙ることは要件ではない。正規の受領権限がないにもかかわらず、欺罔手段によって物資の交付を受ければ足りる。
重要事実
被告人は不正な手段で入手した家庭物資配給通帳を、あたかも正式に取得したもののように装って配給所の係員に提示した。係員はこれを信じて欺罔され、正式な通帳がなければ交付が許されない主食糧を被告人に交付した。被告人には当該物資を受領すべき正当な理由がなかった。
事件番号: 昭和24(れ)822 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
中京区役所第四駐在員事務所主任ではなく単なる同事務所の事務員であつて主任を補助して事務を執つている者にすぎない者は転出証明書を作成交付する権限のない者であるから同人が擅に行使の目的を以つて内容虚偽の転出証明書を作成したことは刑法一五五条の公文書偽造であつて、同法一五六条の犯罪にはならない。
あてはめ
配給主食糧は正式な通帳がなければ交付が許されない性質のものであり、係員は通帳の正当性を前提として交付の判断を行っている。被告人が不正な通帳を提示した行為は、交付の基礎となる重要事項を偽る欺罔行為にあたる。この欺罔により係員が錯誤に陥り、本来交付すべきでない物資を交付した以上、経済的な計算上の損害が認められずとも、財物の占有移転という結果が生じているため、詐欺罪の構成要件を充足する。
結論
被告人に詐欺罪が成立する。上告棄却。
実務上の射程
本判決は、詐欺罪における「損害」を経済的差額ではなく、交付の判断の基礎となる属性や条件の偽り(目的の不達)に求める考え方を示した。現代の司法試験においては、寄付金詐欺や、暴力団員であることを隠してホテルに宿泊する事例など、経済的等価物が提供されていても交付自体が拒否されるべき性質の事案において、「財産的価値」の毀損をどう構成するかを論じる際の基礎となる。
事件番号: 昭和22(れ)60 / 裁判年月日: 昭和23年6月9日 / 結論: 棄却
一 たとえ公定代金を支拂つたとしても、僞造の特配指令書を眞正なものと詐り、相手方を誤信させて、眞正な指令書の所持人でなければ買受けることのできない酒類を買取つた場合は、詐欺罪が成立する。 二 論旨の如く被告人は昭和二二年一月二〇日勾留せられてより同年二月二六日保釋となるまで三八日間拘禁されたことは明らかであるが(勾引さ…
事件番号: 昭和22(れ)105 / 裁判年月日: 昭和23年4月7日 / 結論: 棄却
一 賍物を處分することは、財産罪に伴う事實行爲であつて、別罪を構成しないこと勿論であるが、騙取した米穀通帳を配給所へ提出して係員を欺罔して米穀を騙取することは更に他の新法益を侵害する行爲であるから、ここに亦犯罪の成立を認むべきこと、理のまさに然るところであつて、右の事實を目して單に騙取した米穀通帳の事後處分なるに過ぎな…
事件番号: 昭和23(れ)329 / 裁判年月日: 昭和23年7月15日 / 結論: 棄却
論旨は本件被告人の所爲は詐欺罪を構成せず食糧緊急措置令第一〇條本文を以て律すべきものであるというのである。しかし被告人の本件所爲が刑法第二四六條第一項の詐欺罪を構成するものであることは前説示の通りであつて、たとえ一面右措置令第一〇條本文所定の一場合にも該當するとしても、同條の末尾には「其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル…
事件番号: 昭和24(れ)3033 / 裁判年月日: 昭和25年4月25日 / 結論: 棄却
たとい公定代金を支拂つたとしても、婚禮用酒又は葬儀用酒の僞造特配證明書を眞正なものと詐り、相手方を誤信させて眞正な特配證明書の所持人でなければ買受けることのできない清酒を買取つた場合に詐欺罪の成立すること、當裁判所大法廷判例の趣旨に徴して明かである。(昭和二二年(れ)第六〇號同二三年六月九日言渡大法廷判決參照)。