一 賍物を處分することは、財産罪に伴う事實行爲であつて、別罪を構成しないこと勿論であるが、騙取した米穀通帳を配給所へ提出して係員を欺罔して米穀を騙取することは更に他の新法益を侵害する行爲であるから、ここに亦犯罪の成立を認むべきこと、理のまさに然るところであつて、右の事實を目して單に騙取した米穀通帳の事後處分なるに過ぎないと見るべき謂われはない。 二 原則として未決拘留日數の全部を本刑に通算するのが憲法の精神であるということは、憲法の何れの條規からも推論し得ないところである 三 被告人に實刑を科するため家族が生活困難に陷るとしてもその判決は憲法第二五條に違反するものでない。
一 騙取した米穀通帳により米の配給を受ける行爲と詐欺罪の成立 二 未決勾留日數の通算と憲法の精神 三 被告人に對する實刑の言渡と憲法第二五條
刑法246條,刑法21條,憲法25條
判旨
騙取した米穀通帳を配給所に提示して米穀を騙取する行為は、単なる事後処分ではなく、新たな法益を侵害するものとして独立に詐欺罪(刑法246条1項)を構成する。
問題の所在(論点)
騙取した米穀通帳を用いてさらに米穀を騙取する行為が、先行する通帳騙取罪の不可罰的事後行為(共罰的事後行為)にとどまるのか、それとも独立した詐欺罪を構成するのか。
規範
財産罪によって得た物を処分する行為であっても、それが単なる事後の処分行為にとどまらず、更に他の新たな法益を侵害する行為である場合には、独立して別の犯罪を構成する。
重要事実
被告人両名は共謀の上、偽造した転出証明書を役場係員に提出してこれを行使し、係員を欺罔して米穀配給通帳を騙取した。さらに、被告人らは当該通帳を配給所の係員に提出し、正当な受給権があるものと誤信させて米穀120キログラムの配給を受け、これを騙取した。
事件番号: 昭和24(れ)822 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
中京区役所第四駐在員事務所主任ではなく単なる同事務所の事務員であつて主任を補助して事務を執つている者にすぎない者は転出証明書を作成交付する権限のない者であるから同人が擅に行使の目的を以つて内容虚偽の転出証明書を作成したことは刑法一五五条の公文書偽造であつて、同法一五六条の犯罪にはならない。
あてはめ
賍物(騙取した通帳)を処分することは通常は事実行為に過ぎない。しかし、本件において騙取した通帳を配給所へ提出し、係員を欺罔して米穀を騙取する行為は、通帳自体の領得とは別に「米穀」という新たな財産的法益を侵害するものである。したがって、通帳の騙取によって侵害された法益とは異なる新たな法益侵害が認められるため、単なる事後処分とはいえない。
結論
被告人らが米穀配給通帳を用いて米穀を騙取した行為について、刑法246条1項の詐欺罪の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
不可罰的事後行為の限界に関する基本判例である。先行行為(通帳騙取)によって得られた利得をさらに行使して新たな財物を取得する場合、後続行為が新たな法益侵害を伴うか否かという視点から罪数を検討する際の指針となる。
事件番号: 昭和24(れ)2852 / 裁判年月日: 昭和25年2月24日 / 結論: 棄却
論旨は窃取しまたは騙取した郵便貯金通帳を利用して預金を引出す行爲は賍物の處分行爲として罪とならないと主張するのである。しかし賍物を處分することは財産罪に伴う事後處分に過ぎないから別罪を構成しないことは勿論であるが窃取または騙取した郵便貯金通帳を利用して郵便局係員を欺罔し眞實名儀人において貯金の拂戻を請求するものと誤信せ…
事件番号: 昭和23(れ)1490 / 裁判年月日: 昭和24年2月15日 / 結論: 棄却
配給主食糧は正式の通帳なくては配給所の係員はこれを交付することは許されないものである。かかる物資を正式の通帳を所持する如く装い、これを受領すべき正當の理由がないに拘はらず、配給所の係員を欺いて交付させ受領した以上、刑法第二四六條第一項の詐欺罪が成立したものというに充分である。金銭的計算關係において自己が不當の利益を得、…
事件番号: 昭和23(れ)329 / 裁判年月日: 昭和23年7月15日 / 結論: 棄却
論旨は本件被告人の所爲は詐欺罪を構成せず食糧緊急措置令第一〇條本文を以て律すべきものであるというのである。しかし被告人の本件所爲が刑法第二四六條第一項の詐欺罪を構成するものであることは前説示の通りであつて、たとえ一面右措置令第一〇條本文所定の一場合にも該當するとしても、同條の末尾には「其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル…
事件番号: 昭和23(れ)1752 / 裁判年月日: 昭和24年4月9日 / 結論: 棄却
家庭用米穀配給通帳は各世帶毎に交付せられるものであつて右通帳における世帶主の氏名の記載はその通帳を特定するためには極めて重要な記載であつて、世帶主甲名儀の通帳と同乙名儀の通帳とは、たとえ通帳自體は同一物が利用せられ從つてその通帳の作成名儀者は同一であつても、全く別個の通帳と認めざるを得ない、されば原判決が前示被告人の所…