中京区役所第四駐在員事務所主任ではなく単なる同事務所の事務員であつて主任を補助して事務を執つている者にすぎない者は転出証明書を作成交付する権限のない者であるから同人が擅に行使の目的を以つて内容虚偽の転出証明書を作成したことは刑法一五五条の公文書偽造であつて、同法一五六条の犯罪にはならない。
主任を補助して事務を執つているに過ぎない区役所の事務員が擅に内容虚偽の転出証明書を作成した行為の擬律
刑法7条,刑法155条,刑法156条
判旨
詐欺罪における損害の有無は、欺罔手段により財物の交付を受けた事実自体で判断される。したがって、食糧の配給を受ける正当な権原がない者が偽造書類を用いて配給を受けた場合、代金を支払っていても相手方に財産上の損害を与えたものとして詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
正当な配給権原がない者が、偽造書類を用いて食糧の配給を受けた場合、その代金を支払っていても詐欺罪における「損害」が認められるか。また、欺罔行為と交付の間に因果関係が認められるか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)の成立には、欺罔手段と財物の交付との間に因果関係が必要である。また、財物の交付を受けるについて正当な権原がないにもかかわらず、欺罔手段を用いて交付を受けた場合、法律上の利得および損害の発生が認められ、対価の支払の有無は罪の成立を左右しない。
重要事実
被告人は、公務所の事務員と共謀し、架空の人物名義の転出証明書を偽造した。被告人は、この偽造された転出証明書およびそれに基づき作成された米穀通帳を販売所に提示し、係員を誤信させて主食(食糧)の配給を受けた。被告人側は、配給の際に代金を支払っているため、販売所には実質的な財産上の損害が生じていないと主張して上告した。
事件番号: 昭和22(れ)60 / 裁判年月日: 昭和23年6月9日 / 結論: 棄却
一 たとえ公定代金を支拂つたとしても、僞造の特配指令書を眞正なものと詐り、相手方を誤信させて、眞正な指令書の所持人でなければ買受けることのできない酒類を買取つた場合は、詐欺罪が成立する。 二 論旨の如く被告人は昭和二二年一月二〇日勾留せられてより同年二月二六日保釋となるまで三八日間拘禁されたことは明らかであるが(勾引さ…
あてはめ
まず、販売所の係員は、提出された転出証明書等が真正なものと誤信して配給を行っているため、欺罔行為と交付の間の因果関係は明白である。次に、米穀通帳等は配給資格を証明する資料にすぎず、偽造書類に基づく通帳は無効であるから、被告人は正当な受領権原を有しない。正当な権原なく財物の交付を受けた以上、法律上の利得と損害が認められる。配給代金を支払った事実は、正当な権原なき受領という事実を覆すものではなく、販売所の財産上の損害を否定する理由にはならない。
結論
被告人の行為は詐欺罪を構成する。代金の支払があっても、正当な権原なく欺罔によって配給を受けた以上、損害の発生は認められる。
実務上の射程
実務上、詐欺罪における「損害」が、単なる経済的差額(純粋な財産的価値の減少)だけでなく、交付の目的や正当な権原の有無に基づき判断されることを示した。いわゆる「実質的個別財産説」に近い立場を採り、対価を支払っていても、本来の交付目的が達せられない場合には損害を肯定する答案構成において有用である。
事件番号: 昭和24(れ)3033 / 裁判年月日: 昭和25年4月25日 / 結論: 棄却
たとい公定代金を支拂つたとしても、婚禮用酒又は葬儀用酒の僞造特配證明書を眞正なものと詐り、相手方を誤信させて眞正な特配證明書の所持人でなければ買受けることのできない清酒を買取つた場合に詐欺罪の成立すること、當裁判所大法廷判例の趣旨に徴して明かである。(昭和二二年(れ)第六〇號同二三年六月九日言渡大法廷判決參照)。
事件番号: 昭和22(れ)105 / 裁判年月日: 昭和23年4月7日 / 結論: 棄却
一 賍物を處分することは、財産罪に伴う事實行爲であつて、別罪を構成しないこと勿論であるが、騙取した米穀通帳を配給所へ提出して係員を欺罔して米穀を騙取することは更に他の新法益を侵害する行爲であるから、ここに亦犯罪の成立を認むべきこと、理のまさに然るところであつて、右の事實を目して單に騙取した米穀通帳の事後處分なるに過ぎな…
事件番号: 昭和23(れ)329 / 裁判年月日: 昭和23年7月15日 / 結論: 棄却
論旨は本件被告人の所爲は詐欺罪を構成せず食糧緊急措置令第一〇條本文を以て律すべきものであるというのである。しかし被告人の本件所爲が刑法第二四六條第一項の詐欺罪を構成するものであることは前説示の通りであつて、たとえ一面右措置令第一〇條本文所定の一場合にも該當するとしても、同條の末尾には「其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル…
事件番号: 昭和24(れ)2852 / 裁判年月日: 昭和25年2月24日 / 結論: 棄却
論旨は窃取しまたは騙取した郵便貯金通帳を利用して預金を引出す行爲は賍物の處分行爲として罪とならないと主張するのである。しかし賍物を處分することは財産罪に伴う事後處分に過ぎないから別罪を構成しないことは勿論であるが窃取または騙取した郵便貯金通帳を利用して郵便局係員を欺罔し眞實名儀人において貯金の拂戻を請求するものと誤信せ…