たとい公定代金を支拂つたとしても、婚禮用酒又は葬儀用酒の僞造特配證明書を眞正なものと詐り、相手方を誤信させて眞正な特配證明書の所持人でなければ買受けることのできない清酒を買取つた場合に詐欺罪の成立すること、當裁判所大法廷判例の趣旨に徴して明かである。(昭和二二年(れ)第六〇號同二三年六月九日言渡大法廷判決參照)。
公定代金の支拂と詐欺罪の成立
刑法246條1項
判旨
代金の支払があったとしても、特定の資格や証明書の所持が販売の前提条件となっている取引において、偽造の証明書を用いて相手方を誤信させ、本来買い受けることのできない物品を取得した場合は、詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
代金相当額(公定価格)の支払いが行われている場合であっても、偽造の特配証明書を用いて物品を取得する行為が、刑法246条1項の詐欺罪における「欺いて財物を交付させた」行為に該当するか。特に、財産的損害の有無が問題となる。
規範
詐欺罪における財産的損害は、形式的な経済的価値の多寡だけでなく、取引の目的や条件に照らして財産的処置の目的が達成されたか否かにより判断される。公定代金の支払があったとしても、特定の給付条件(配給制度等)を偽り、本来受領資格のない者が物品を取得した場合には、財産的損害が認められ、詐欺罪を構成する。
重要事実
被告人は、婚礼用または葬儀用の酒類に関する「特配制度」が存在する状況下で、偽造された特配証明書を真正なものであると称して相手方を欺いた。相手方はその証明書を信頼し、被告人を正当な受領権者であると誤信した。その結果、被告人は公定代金を支払ったものの、本来であれば真正な証明書の所持人でなければ買い受けることのできない清酒を買い受けた。
事件番号: 昭和22(れ)60 / 裁判年月日: 昭和23年6月9日 / 結論: 棄却
一 たとえ公定代金を支拂つたとしても、僞造の特配指令書を眞正なものと詐り、相手方を誤信させて、眞正な指令書の所持人でなければ買受けることのできない酒類を買取つた場合は、詐欺罪が成立する。 二 論旨の如く被告人は昭和二二年一月二〇日勾留せられてより同年二月二六日保釋となるまで三八日間拘禁されたことは明らかであるが(勾引さ…
あてはめ
本件における清酒の販売は、単なる売買ではなく特配制度に基づくものであり、真正な特配証明書の所持が販売の絶対的条件であったといえる。被告人は偽造の証明書を提示しており、これは取引の重要な基礎となる事実を偽る欺罔行為にあたる。相手方はこの欺罔行為により、被告人を適法な譲受人と誤信して処分行為に及んでおり、たとえ相当な代金を受け取っていたとしても、制度上の制約がある物品を不適格者に交付した点において、財産的処分の目的を達せられなかったというべきである。したがって、詐欺罪の成立を妨げない。
結論
公定代金を支払ったとしても、偽造特配証明書を用いて清酒を取得した行為には詐欺罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、いわゆる「形式的個別財産説」の立場を示したものと解され、現代においても、商品の属性や販売対象に強い制限がある取引(年齢確認、身分確認、暴力団排除条項等)において、代金を支払いつつ属性を偽って購入した場合の詐欺罪成否を検討する際の重要な基準となる。
事件番号: 昭和24(れ)822 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
中京区役所第四駐在員事務所主任ではなく単なる同事務所の事務員であつて主任を補助して事務を執つている者にすぎない者は転出証明書を作成交付する権限のない者であるから同人が擅に行使の目的を以つて内容虚偽の転出証明書を作成したことは刑法一五五条の公文書偽造であつて、同法一五六条の犯罪にはならない。
事件番号: 昭和23(れ)329 / 裁判年月日: 昭和23年7月15日 / 結論: 棄却
論旨は本件被告人の所爲は詐欺罪を構成せず食糧緊急措置令第一〇條本文を以て律すべきものであるというのである。しかし被告人の本件所爲が刑法第二四六條第一項の詐欺罪を構成するものであることは前説示の通りであつて、たとえ一面右措置令第一〇條本文所定の一場合にも該當するとしても、同條の末尾には「其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル…
事件番号: 昭和23(れ)1490 / 裁判年月日: 昭和24年2月15日 / 結論: 棄却
配給主食糧は正式の通帳なくては配給所の係員はこれを交付することは許されないものである。かかる物資を正式の通帳を所持する如く装い、これを受領すべき正當の理由がないに拘はらず、配給所の係員を欺いて交付させ受領した以上、刑法第二四六條第一項の詐欺罪が成立したものというに充分である。金銭的計算關係において自己が不當の利益を得、…
事件番号: 昭和24(れ)2852 / 裁判年月日: 昭和25年2月24日 / 結論: 棄却
論旨は窃取しまたは騙取した郵便貯金通帳を利用して預金を引出す行爲は賍物の處分行爲として罪とならないと主張するのである。しかし賍物を處分することは財産罪に伴う事後處分に過ぎないから別罪を構成しないことは勿論であるが窃取または騙取した郵便貯金通帳を利用して郵便局係員を欺罔し眞實名儀人において貯金の拂戻を請求するものと誤信せ…