論旨は窃取しまたは騙取した郵便貯金通帳を利用して預金を引出す行爲は賍物の處分行爲として罪とならないと主張するのである。しかし賍物を處分することは財産罪に伴う事後處分に過ぎないから別罪を構成しないことは勿論であるが窃取または騙取した郵便貯金通帳を利用して郵便局係員を欺罔し眞實名儀人において貯金の拂戻を請求するものと誤信せしめて貯金の拂戻名儀の下に金員を騙取することは更に新法益を侵害する行爲であるからここに亦犯罪の成立を認むべきであつてこれをもつて賍物の單なる事後處分と同視することはできないのである。然らば原審が所論郵便貯金通帳を利用して預金を引出した行爲に對し詐欺罪をもつて問疑したことは正常であるから論旨は理由がない。
窃取または騙取した郵便貯金通帳を利用して預金を引出した行爲と詐欺罪の成立
刑法第246條1項
判旨
窃取または騙取した郵便貯金通帳を利用して郵便局係員を欺き、預金の払い戻しを受ける行為は、窃盗罪や詐欺罪の不可罰的事後行為ではなく、独立して詐欺罪を構成する。
問題の所在(論点)
窃取または騙取した他人の郵便貯金通帳を利用して預金を引き出す行為が、先行する窃盗罪や詐欺罪の「不可罰的事後行為」として処罰を免れるか、あるいは別個に詐欺罪を構成するか。
規範
先行する財産罪によって得た物を処分する行為であっても、その行為が先行犯罪によって侵害された法益とは別の新たな法益を侵害する場合には、独立した犯罪として成立し、不可罰的事後行為とはならない。
重要事実
被告人は、窃取または騙取によって他人の郵便貯金通帳を入手した。その後、被告人は郵便局の係員に対し、自らが真実の権利者であるかのように装って貯金の払い戻しを請求し、係員を誤信させて現金の交付を受けた。
事件番号: 昭和24(れ)822 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
中京区役所第四駐在員事務所主任ではなく単なる同事務所の事務員であつて主任を補助して事務を執つている者にすぎない者は転出証明書を作成交付する権限のない者であるから同人が擅に行使の目的を以つて内容虚偽の転出証明書を作成したことは刑法一五五条の公文書偽造であつて、同法一五六条の犯罪にはならない。
あてはめ
郵便貯金通帳の窃取・騙取は、その物の占有を侵害するものであるが、これを利用して預金を払い戻させる行為は、郵便局という第三者を欺罔し、その管理に係る現金を交付させる行為である。これは、通帳自体の領得とは別に、現金という新たな財産的利益を対象とした「新たな法益侵害」を伴うものである。したがって、単なる賍物の処分行為(不可罰的事後行為)と同視することはできず、詐欺罪の構成要件を充足するといえる。
結論
窃取または騙取した郵便貯金通帳を利用して預金を引き出す行為には、詐欺罪が成立する。
実務上の射程
財産罪における不可罰的事後行為の限界を示す重要な判決である。窃盗の客体(通帳)と、その後の行為の客体(預金債権・現金)が異なる場合や、被害者(通帳所有者)以外を欺罔する場合(郵便局員)には、事後行為としての枠を超え、併合罪(または先行罪が吸収されない別罪)として処理すべき根拠として機能する。
事件番号: 昭和22(れ)105 / 裁判年月日: 昭和23年4月7日 / 結論: 棄却
一 賍物を處分することは、財産罪に伴う事實行爲であつて、別罪を構成しないこと勿論であるが、騙取した米穀通帳を配給所へ提出して係員を欺罔して米穀を騙取することは更に他の新法益を侵害する行爲であるから、ここに亦犯罪の成立を認むべきこと、理のまさに然るところであつて、右の事實を目して單に騙取した米穀通帳の事後處分なるに過ぎな…
事件番号: 昭和23(れ)1752 / 裁判年月日: 昭和24年4月9日 / 結論: 棄却
家庭用米穀配給通帳は各世帶毎に交付せられるものであつて右通帳における世帶主の氏名の記載はその通帳を特定するためには極めて重要な記載であつて、世帶主甲名儀の通帳と同乙名儀の通帳とは、たとえ通帳自體は同一物が利用せられ從つてその通帳の作成名儀者は同一であつても、全く別個の通帳と認めざるを得ない、されば原判決が前示被告人の所…
事件番号: 昭和23(れ)1947 / 裁判年月日: 昭和24年4月5日 / 結論: 棄却
一 貯金局名儀を以て發行せられる郵便貯金通帳は、公法關係において作成せられるものであるか、私法關係において作成せられるものであるかの問題に拘りなく、右の公文書であつて所論のような私文書ではない。(昭和五年(れ)第二〇三三號同六年三月一一日言渡大審院判決参照)それは又刑法第一六二條にいわゆる有價證券でもない。 二 甲府郵…
事件番号: 昭和24(れ)3033 / 裁判年月日: 昭和25年4月25日 / 結論: 棄却
たとい公定代金を支拂つたとしても、婚禮用酒又は葬儀用酒の僞造特配證明書を眞正なものと詐り、相手方を誤信させて眞正な特配證明書の所持人でなければ買受けることのできない清酒を買取つた場合に詐欺罪の成立すること、當裁判所大法廷判例の趣旨に徴して明かである。(昭和二二年(れ)第六〇號同二三年六月九日言渡大法廷判決參照)。