家庭用米穀配給通帳は各世帶毎に交付せられるものであつて右通帳における世帶主の氏名の記載はその通帳を特定するためには極めて重要な記載であつて、世帶主甲名儀の通帳と同乙名儀の通帳とは、たとえ通帳自體は同一物が利用せられ從つてその通帳の作成名儀者は同一であつても、全く別個の通帳と認めざるを得ない、されば原判決が前示被告人の所爲を以て村長Aの作成にかかる世帶主被告人名儀の通帳を利用して世帯主B名儀の新なる通帳を作成したものと解しこれを公文書僞造罪に問擬したのは正當であつて右は公文書變造罪にあたるものであると主張する論旨はあやまりである。
世帶を甲名儀の家庭用米穀通帳に新たに世帶主乙名儀を書き加えた場合と公文書僞造罪の成立
刑法155條1項
判旨
既存の公文書の重要部分に変更を加え、文書の性質や同一性に本質的な変更を及ぼした場合には、変造ではなく偽造にあたる。
問題の所在(論点)
既存の公文書において世帯主の氏名を書き換える行為が、公文書変造罪(刑法155条2項)にとどまるのか、それとも公文書偽造罪(刑法155条1項)を構成するのか。
規範
文書の偽造とは、権限のない者が他人名義の文書を作成することをいい、変造とは、権限のない者が他人の作成した既存の文書の内容に変更を加えることをいう。しかし、既存の文書を利用した場合であっても、その重要部分に変更を加え、別個の文書を作成したと評価し得る場合には、変造ではなく偽造(作成)に該当する。
重要事実
被告人は、村長名義の家庭用米穀配給通帳において、世帯主として記載されていた自己の氏名「C」を指先ですり消した。その上で、亡弟の名である「B」をインキで書き込み、あたかも亡弟を世帯主とする通帳であるかのように外観を改竄した。
事件番号: 昭和25(れ)1547 / 裁判年月日: 昭和26年2月27日 / 結論: 棄却
原判決の確定した事実によれば被告人はA村長B作成名義の同村長の氏名捺印ある転出証明書用紙(但し転出者欄を空白としたもの)一八枚を利用し、その各転出者欄中の空欄に判示C外一七名の各氏名、年令等をそれぞれ擅に記入して同村長作成名義の右C外一七名に関する各転出証明書を作成したというのであるから被告人の判示各所為は公文書の変造…
あてはめ
家庭用米穀配給通帳は世帯ごとに交付されるものであり、世帯主の氏名は当該通帳を特定するための極めて重要な記載である。世帯主が「甲」である通帳と「乙」である通帳は、たとえ同一の用紙・作成名義人(村長)を利用していたとしても、社会通念上、全く別個の通帳と認められる。したがって、本件のように氏名を書き換える行為は、既存の通帳の一部変更にとどまらず、新たな通帳を作成したものと評価すべきである。
結論
被告人の所為は、公文書偽造罪(刑法155条1項)を構成する。
実務上の射程
「偽造」と「変造」の区別に関する重要判例である。文書の同一性を害する程度の本質的な変更は、たとえ既存の用紙を利用していても偽造となる。答案上は、記載の変更が文書の証明力や社会的な機能にどのような影響を及ぼすかを検討し、本質的部分の変更と言える場合に本判例を援用して偽造を認めるべきである。
事件番号: 昭和24(れ)2852 / 裁判年月日: 昭和25年2月24日 / 結論: 棄却
論旨は窃取しまたは騙取した郵便貯金通帳を利用して預金を引出す行爲は賍物の處分行爲として罪とならないと主張するのである。しかし賍物を處分することは財産罪に伴う事後處分に過ぎないから別罪を構成しないことは勿論であるが窃取または騙取した郵便貯金通帳を利用して郵便局係員を欺罔し眞實名儀人において貯金の拂戻を請求するものと誤信せ…
事件番号: 昭和23(れ)677 / 裁判年月日: 昭和23年10月28日 / 結論: 棄却
一 地方食糧營團の職員名儀の配給停止證明書は刑法上公務員の作るべき文書とみなされる。 二 昭和一九年法律第四號經濟關係罰則ノ整備ニ關スル法律第一條にいわゆる「團體又ハ營團、金庫若シクハ此等ニ準ズルモノノ役員其ノ他ノ職員ハ罰則ノ適用ニ付テハ之ヲ法令ニ依リ公務ニ從事スル職員ト看做ス」との規定は、かかる團體等は國家總動員法に…
事件番号: 昭和59(あ)555 / 裁判年月日: 昭和61年6月27日 / 結論: 棄却
行使の目的をもつて、ほしいままに、営林署長の記名押印がある売買契約書の売買代金欄等の記載に改ざんを施すなどしたうえ、これを複写機械で複写する方法により、あたかも真正な右売買契約書を原形どおり正確に複写したかのような形式、外観を備えるコピーを作成した所為は、その改ざんが原本自体にされたのであれば未だ文書の変造の範ちゆうに…
事件番号: 昭和22(れ)105 / 裁判年月日: 昭和23年4月7日 / 結論: 棄却
一 賍物を處分することは、財産罪に伴う事實行爲であつて、別罪を構成しないこと勿論であるが、騙取した米穀通帳を配給所へ提出して係員を欺罔して米穀を騙取することは更に他の新法益を侵害する行爲であるから、ここに亦犯罪の成立を認むべきこと、理のまさに然るところであつて、右の事實を目して單に騙取した米穀通帳の事後處分なるに過ぎな…