原判決の確定した事実によれば被告人はA村長B作成名義の同村長の氏名捺印ある転出証明書用紙(但し転出者欄を空白としたもの)一八枚を利用し、その各転出者欄中の空欄に判示C外一七名の各氏名、年令等をそれぞれ擅に記入して同村長作成名義の右C外一七名に関する各転出証明書を作成したというのであるから被告人の判示各所為は公文書の変造でなく刑法第一五五条一項の公文書偽造に該当するものというべく原判決には所論の違法はない。
村長の氏名捺印ある転出証明書用紙に擅に転出者の氏名年令等を記入し右証明書を作成した行為と公文書偽造
刑法155条1項,刑法155条3項
判旨
村長の記名捺印があるものの、氏名等が空白の転出証明書用紙に、権限なく他人の氏名等を記入する行為は、公文書の変造ではなく刑法155条1項の公文書偽造に該当する。
問題の所在(論点)
作成権限者の印影や記名が既に存在する空白の公用文書用紙に、非権限者が内容を補充して文書を完成させる行為が、「偽造」と「変造」のいずれに該当するか。
規範
公務所または公務員の作成すべき文書について、作成権限のない者が、他人の記名捺印を利用して文書の主要部分を新たに作り出し、その名義の文書を完成させる行為は「偽造」に当たる。
重要事実
被告人は、A村長の名義および同村長の氏名捺印があるものの、転出者欄が空白の状態であった転出証明書用紙18枚を入手した。被告人は、これら用紙の転出者欄の空欄に、作成権限がないにもかかわらず、勝手にC外17名の氏名、年齢等をそれぞれ記入し、村長作成名義の転出証明書を完成させた。
事件番号: 昭和25(れ)1375 / 裁判年月日: 昭和26年4月27日 / 結論: 破棄自判
一 経済関係罰則の整備に関する法律第一条の規定と対比して見ると、同条は別表甲号に掲げる経済団体の「役員其ノ他ノ職員ハ罰則ノ適用ニ付テハ之ヲ法令ニ依リ公務ニ従事スル職員ト看做ス」旨を規定しているが同第二条には、かかる規定は存在しない。すなわち、以上各規定の趣旨からみれば、右別表甲号、乙号掲記の経済団体の職員はいずれも本来…
あてはめ
本件において、村長の記名捺印があるものの転出者欄が空白の用紙は、未だ特定の証明内容を備えた公文書として完成していない。被告人がこの空欄に他人の氏名等を記入する行為は、既存の文書の内容に変更を加える「変造」ではなく、新たに特定の証明力を有する村長名義の文書を創出したものといえる。したがって、被告人の所為は公文書偽造罪の構成要件を充足する。
結論
被告人の行為は、刑法155条1項の公文書偽造罪に該当する。
実務上の射程
白地名義人によって記名・捺印のみがなされた段階の用紙に、非権限者が内容を補充して文書を完成させる場合は偽造となる。答案上では、既存の「真正な文書」が存在するか否かを基準に、偽造(新設)と変造(変更)を区別する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)1752 / 裁判年月日: 昭和24年4月9日 / 結論: 棄却
家庭用米穀配給通帳は各世帶毎に交付せられるものであつて右通帳における世帶主の氏名の記載はその通帳を特定するためには極めて重要な記載であつて、世帶主甲名儀の通帳と同乙名儀の通帳とは、たとえ通帳自體は同一物が利用せられ從つてその通帳の作成名儀者は同一であつても、全く別個の通帳と認めざるを得ない、されば原判決が前示被告人の所…
事件番号: 昭和26(れ)1917 / 裁判年月日: 昭和26年10月26日 / 結論: 棄却
原審相被告人A同Bの両名は、いずれも舞鶴市長の補助機関として同市役所西支所において、転入転出世帯員の異動証明、諸配給の通帳交付等の事務に従事していたというのであつて、所論の如き市長名義の独立した公文書作成の権限を有しいたものではない。してみれば、被告人が右両名と共謀して原判示第七及び第一一の一の如く、壇に転出証明書家庭…
事件番号: 昭和59(あ)555 / 裁判年月日: 昭和61年6月27日 / 結論: 棄却
行使の目的をもつて、ほしいままに、営林署長の記名押印がある売買契約書の売買代金欄等の記載に改ざんを施すなどしたうえ、これを複写機械で複写する方法により、あたかも真正な右売買契約書を原形どおり正確に複写したかのような形式、外観を備えるコピーを作成した所為は、その改ざんが原本自体にされたのであれば未だ文書の変造の範ちゆうに…