判旨
公文書偽造罪は、作成権限のない者が公務所の作るべき文書を作成することで成立し、公印の盗用のみでは既遂に達しない。資材名や数量、発行年月日等の重要事項を記入し、文書としての形式内容を整えた時点で偽造罪が完成する。
問題の所在(論点)
公文書偽造罪において、公務所の印章が押捺された白紙の証明書用紙に、権限なく必要事項を記入する行為が、偽造罪の実行行為(既遂)にあたるか。
規範
刑法155条1項の公文書偽造罪は、文書作成権限のない者が、行使の目的で、公務所又は公務員の作成すべき文書を作成することによって成立する。公印の押捺があるのみでは足りず、文書の重要事項(資材名、数量、日付等)を記入し、特定の意思を表示する文書としての体裁を具備した時点をもって偽造の既遂となる。
重要事実
被告人Bは、共同被告人Aと共謀し、広島商工局の需要割当証明書を偽造しようとした。まずAが証明書用紙に同局の印章を盗用して押捺し、その後、Bが当該用紙の各所定欄に「パラフィン2000キログラム」という資材名、数量、発行年月日等の事項を記入した。弁護側は、印章の押捺時点で偽造は成立しており、その後のBの行為は犯罪を構成しないと主張して上告した。
あてはめ
公文書偽造罪の保護法益は公文書に対する社会的信頼であり、形式的に公印が押されているだけでは、特定の証明機能を果たす文書が「作成」されたとはいえない。本件では、Aが広島商工局の公印を盗用押捺した段階では未だ文書の内容が確定しておらず、偽造罪は既遂に達していない。被告人Bが資材名、数量、発行年月日等の具体的な判示事項を記入したことにより、初めて広島商工局の作成すべき文書としての形式内容が完成したといえる。したがって、Bの記入行為は、Aの行為と一体となって公文書偽造罪を構成する不可欠な実行行為であると評価される。
結論
被告人Bが重要事項を記入した時点で公文書偽造罪が完成するため、被告人Bには同罪が成立する。
事件番号: 昭和25(れ)1442 / 裁判年月日: 昭和26年8月28日 / 結論: 棄却
行使の目的を以て公文書の形式を偽り、一般人をして公務所若しくは公務員がその権限内において作成したものであると信ぜしめるに足る形式外観を具える文書を作成し、以て公文書の信用を害する危険を生ぜしめたときは他の記載事項欄が空白であつても公文書偽造罪が成立する。
実務上の射程
公文書偽造罪における「作成」の完了時期を画した事例である。印章の冒用・盗用のみでは足りず、文書としての意味内容が完成した時点を既遂時期とする実務上の指針となる。答案上は、数人が分担して偽造を行う場合の共謀共同正犯の成立範囲や、実行の着手・既遂の区別を論じる際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1547 / 裁判年月日: 昭和26年2月27日 / 結論: 棄却
原判決の確定した事実によれば被告人はA村長B作成名義の同村長の氏名捺印ある転出証明書用紙(但し転出者欄を空白としたもの)一八枚を利用し、その各転出者欄中の空欄に判示C外一七名の各氏名、年令等をそれぞれ擅に記入して同村長作成名義の右C外一七名に関する各転出証明書を作成したというのであるから被告人の判示各所為は公文書の変造…
事件番号: 昭和25(れ)1375 / 裁判年月日: 昭和26年4月27日 / 結論: 破棄自判
一 経済関係罰則の整備に関する法律第一条の規定と対比して見ると、同条は別表甲号に掲げる経済団体の「役員其ノ他ノ職員ハ罰則ノ適用ニ付テハ之ヲ法令ニ依リ公務ニ従事スル職員ト看做ス」旨を規定しているが同第二条には、かかる規定は存在しない。すなわち、以上各規定の趣旨からみれば、右別表甲号、乙号掲記の経済団体の職員はいずれも本来…
事件番号: 昭和26(れ)1917 / 裁判年月日: 昭和26年10月26日 / 結論: 棄却
原審相被告人A同Bの両名は、いずれも舞鶴市長の補助機関として同市役所西支所において、転入転出世帯員の異動証明、諸配給の通帳交付等の事務に従事していたというのであつて、所論の如き市長名義の独立した公文書作成の権限を有しいたものではない。してみれば、被告人が右両名と共謀して原判示第七及び第一一の一の如く、壇に転出証明書家庭…