一 経済関係罰則の整備に関する法律第一条の規定と対比して見ると、同条は別表甲号に掲げる経済団体の「役員其ノ他ノ職員ハ罰則ノ適用ニ付テハ之ヲ法令ニ依リ公務ニ従事スル職員ト看做ス」旨を規定しているが同第二条には、かかる規定は存在しない。すなわち、以上各規定の趣旨からみれば、右別表甲号、乙号掲記の経済団体の職員はいずれも本来の意義における公務員ではないのであるが、ただ甲号団体の職員に限つて罪則の適用については公務員とみなされるに過ぎないことがわかる。従つて、本件農業会のごとき乙号掲記の団体の職員は、もとより公務員でなく、又公務員とみなされるものでもなく、ただ同法第二条の涜職罪の規定の適用を受けるに止まるものというべきである。その他に右縣農業会の職員を以て「法令ニ依リ公務ニ従事スル職員」と解すべき何らの法規上の根拠はないのであるから、従つて縣農業会は、これを公務所と解すべきでなく、その作成すべき出荷指図書のごときは公文書たる性質を有しないものと解すべきである。 二 今経済関係罰則の整備に関する法律をみると、第二条は同法所定の「会社若シクハ組合又ハ此等ニ準ズルモノニシテ別表乙号ニ掲グルモノノ役員其ノ他ノ職員」について、涜職罪に関する罰則を規定し、右別表乙号には「二二」として縣農業会が掲げられているのであるが、若し縣農業会の職員が公務員ならば、刑法の涜職罪の規定が当然に適用せられるのであつてかかる同罪に関する特則を設ける必要はない。もとより、これらの職員に対して、特に法定刑を軽減するの趣旨を以て刑法涜職罪の規定に対する右のごとき特則が定められたものとは、右「経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律」制定の趣旨からして、到底考えられない。
一 農業団体法(昭和一八年法律第四六号)に定める縣農業会の職員は公務員ではない−同会名義の木炭出荷指図書は私文書である 二 経済関係罰則の整備に関する法律第二条の趣旨
農業団体法1条,農業団体法10条,經済関係罰則の整備に関する法律2条,經済関係罰則の整備に関する法律1条(別表甲号を省く),別表乙号「22」,刑法7条,刑法159条1項,刑法197条,経済関係罰則の整備に関する法律2条,経済関係罰則の整備に関する法律1条(別表甲号を省く)
判旨
県農業会は刑法上の公務所に該当せず、その職員が作成すべき文書は公文書には当たらないため、これを偽造・行使する行為は私文書偽造・行使罪を構成するに止まる。
問題の所在(論点)
兵庫県農業会の作成すべき「木炭出荷指図書」が、刑法上の公文書(155条、158条)に該当するか、あるいは私文書(159条、161条)に該当するか。
規範
刑法上の「公文書」とは、公務所または公務員がその職務上作成すべき文書を指す。団体職員が「法令により公務に従事する職員」とみなされる特段の法的根拠がない限り、当該団体は公務所には当たらず、その職員が作成する文書は私文書に該当する。
重要事実
被告人は、兵庫県農業会の名義を冒用して、木炭出荷指図書1通を偽造し、情を知らないAをしてこれを行使させた。第一審および原審は、県農業会を公務所、当該指図書を公文書と解し、公文書偽造・行使罪を適用した。これに対し、被告人側が県農業会の職員は公務員ではないとして上告した。
あてはめ
「経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律」2条は、県農業会の職員を涜職罪(収賄罪等)の適用対象としているが、同法1条のように「公務に従事する職員とみなす」との規定は存在しない。この規定の趣旨に照らせば、県農業会職員は本来の意義における公務員ではなく、公務員とみなされるものでもない。他にこれら職員を「法令により公務に従事する職員」と解すべき根拠もない以上、県農業会は公務所に該当せず、その作成する出荷指図書は公文書としての性質を有しないと判断される。
結論
県農業会名義の文書は私文書に当たる。したがって、被告人の行為には私文書偽造罪および偽造私文書行使罪が成立し、公文書偽造・行使罪を適用した原判決は法律の適用を誤ったものとして破棄される。
実務上の射程
特殊法人の職員や公的性格を有する団体の作成文書が公文書にあたるか否かの判断基準を示す。法律により「公務員とみなす」という「みなし規定」が存在するかどうかが決定的なメルクマールとなることを明示しており、文書偽造罪の客体確定において重要な指針となる。
事件番号: 昭和25(れ)1547 / 裁判年月日: 昭和26年2月27日 / 結論: 棄却
原判決の確定した事実によれば被告人はA村長B作成名義の同村長の氏名捺印ある転出証明書用紙(但し転出者欄を空白としたもの)一八枚を利用し、その各転出者欄中の空欄に判示C外一七名の各氏名、年令等をそれぞれ擅に記入して同村長作成名義の右C外一七名に関する各転出証明書を作成したというのであるから被告人の判示各所為は公文書の変造…
事件番号: 昭和25(れ)1442 / 裁判年月日: 昭和26年8月28日 / 結論: 棄却
行使の目的を以て公文書の形式を偽り、一般人をして公務所若しくは公務員がその権限内において作成したものであると信ぜしめるに足る形式外観を具える文書を作成し、以て公文書の信用を害する危険を生ぜしめたときは他の記載事項欄が空白であつても公文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和23(れ)677 / 裁判年月日: 昭和23年10月28日 / 結論: 棄却
一 地方食糧營團の職員名儀の配給停止證明書は刑法上公務員の作るべき文書とみなされる。 二 昭和一九年法律第四號經濟關係罰則ノ整備ニ關スル法律第一條にいわゆる「團體又ハ營團、金庫若シクハ此等ニ準ズルモノノ役員其ノ他ノ職員ハ罰則ノ適用ニ付テハ之ヲ法令ニ依リ公務ニ從事スル職員ト看做ス」との規定は、かかる團體等は國家總動員法に…
事件番号: 昭和28(あ)3367 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実在しない架空の公務員名義を用いた文書であっても、一般人が公務員により作成された真正な文書と誤認するに足りる外観を備えている場合には、公文書偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない「A検査員B」という架空の公務員名義を用いて文書を作成し、これを行使した。第一審判決および原…