所論「家庭用主食購入通帳」は、一個人の所有權の容体となるべき有体物であるから、刑條にいわゆる財物にあたるものといわなければならない。從つて該通帳が本件被告人の配給物資を騙取せんがための手段であり、道具であるに過ぎなかつたとしても、詐欺罪の成立を妨げる理由はない。されば原審が被告人の所爲に對し食糧緊急措置令第一〇又は刑法第一五七條第二項を適用しないで、刑法第二四六條第一項又は同法第一五五條第一項等を適用したのは正當であつて原判決には所論のような法令の適用を誤つた違法はない。
「家庭用主食購入通帳」は刑法にいわゆる財物にあたるか
刑法157條2項,刑法155條1項,刑法246條1項,食糧緊急措置令10條
判旨
家庭用主食購入通帳は、それ自体が一個人の所有権の客体となるべき有体物である以上、刑法上の「財物」に該当する。したがって、通帳の取得が配給物資の騙取という究極的な目的のための手段にすぎない場合であっても、詐欺罪の成立は妨げられない。
問題の所在(論点)
「家庭用主食購入通帳」が、詐欺罪(刑法246条1項)の客体である「財物」に該当するか。また、他の目的のための手段にすぎない物の取得に詐欺罪が成立するか。
規範
刑法246条1項の「財物」とは、個人の所有権の客体となり得る有体物を指す。特定の利益を得るための手段や道具としての性質を持つ物であっても、それ自体に財産的価値が認められる限り、同条の「財物」に含まれる。
重要事実
被告人は、配給物資を騙取する目的で「家庭用主食購入通帳」を不正に取得した。被告人側は、当該通帳は配給物資を得るための単なる手段や道具にすぎず、刑法上の「財物」には当たらない、あるいは食糧緊急措置令等の特別法が適用されるべきであると主張して上告した。
事件番号: 昭和24(れ)822 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
中京区役所第四駐在員事務所主任ではなく単なる同事務所の事務員であつて主任を補助して事務を執つている者にすぎない者は転出証明書を作成交付する権限のない者であるから同人が擅に行使の目的を以つて内容虚偽の転出証明書を作成したことは刑法一五五条の公文書偽造であつて、同法一五六条の犯罪にはならない。
あてはめ
本件の「家庭用主食購入通帳」は、一個人の所有権の客体となるべき有体物である。したがって、被告人が配給物資を騙取するための「手段」や「道具」として当該通帳を用いたとしても、その性質が失われるものではない。通帳自体を欺罔行為によって取得した以上、詐欺罪の構成要件を充足する。
結論
家庭用主食購入通帳は刑法上の「財物」に該当し、これを騙取した行為には刑法246条1項の詐欺罪が成立する。
実務上の射程
財物の価値(経済的価値)の有無にかかわらず、所有権の客体となり得る物であれば広く「財物」性を認める立場(判例の確立した見解)を再確認するもの。答案上は、利得目的が別の物(本件では配給物資)にあっても、中間的に取得した物の財物性を肯定し、詐欺罪の成立を認める際の根拠となる。
事件番号: 昭和23(れ)329 / 裁判年月日: 昭和23年7月15日 / 結論: 棄却
論旨は本件被告人の所爲は詐欺罪を構成せず食糧緊急措置令第一〇條本文を以て律すべきものであるというのである。しかし被告人の本件所爲が刑法第二四六條第一項の詐欺罪を構成するものであることは前説示の通りであつて、たとえ一面右措置令第一〇條本文所定の一場合にも該當するとしても、同條の末尾には「其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル…
事件番号: 昭和23(れ)1490 / 裁判年月日: 昭和24年2月15日 / 結論: 棄却
配給主食糧は正式の通帳なくては配給所の係員はこれを交付することは許されないものである。かかる物資を正式の通帳を所持する如く装い、これを受領すべき正當の理由がないに拘はらず、配給所の係員を欺いて交付させ受領した以上、刑法第二四六條第一項の詐欺罪が成立したものというに充分である。金銭的計算關係において自己が不當の利益を得、…
事件番号: 昭和23(れ)1947 / 裁判年月日: 昭和24年4月5日 / 結論: 棄却
一 貯金局名儀を以て發行せられる郵便貯金通帳は、公法關係において作成せられるものであるか、私法關係において作成せられるものであるかの問題に拘りなく、右の公文書であつて所論のような私文書ではない。(昭和五年(れ)第二〇三三號同六年三月一一日言渡大審院判決参照)それは又刑法第一六二條にいわゆる有價證券でもない。 二 甲府郵…