一 その裁判所の事件を審判する権限のない裁判官がその裁判所を構成してした公判手段は、無効であつてその公判調書を事実認定の資料とすることは違法である。旧刑訴法第一二条には「訴訟手続は管轄違ひの理由に因り其の効力を後はず」と規定されているのであるがこの規定は本来裁判権を有する裁判所に事件を分配することを目的とする事物及び土地の管轄に関する規定の違背があつても、唯それだけの事由では訴訟手続を無効たらしめるものでないこと明らかにしたに過ぎないものであつて管轄権ある裁判所を構成する裁判官その人がその裁判所に繋属ずる事件を審判する権限のなかつたような場合にまで拡張解釈して準用すべきものではないのである。 二 公務員の身分を有しない者が、虚偽の内容を記載した証明願を村役場の係員に提出し、情を知らない同係員をして村長名義の虚偽の証明書を作成させた行為は、刑法第一五六条の間接正犯として処罰すべきではない。 三 公務員の自分を有しない者が虚偽の内容を記載した証明願を村役場の係員に提出し、情を知らない同係員をして作成させた村長名義の虚偽の証明書を行使しても、虚偽公文書行使罪にあたらない。 四 係員を欺罔して旅券の下附を受ける行為は詐欺罪にあたらない。 五 アメリカ領事館員は刑法にいわゆる「公務員」にあたらない。
一 その裁判所の事件を審判する権限のない裁判官を構成してした公判手続及び公判調書の効力と旧刑訴法第一二条の決意 二 公務員の身分を有しない者が虚偽の申立をなし情を知らない公務員をして虚偽の証明書を作成させた行為と刑法第一五六条の間接正犯 三 公務員の身分を有しない者が虚偽の申立をなし情を知らない公務員をして作成させた虚偽の証明書を行使した行為と虚偽公文書行使罪の成否 四 係員を欺罔して旅券の下附を受ける行為と詐欺罪の成否 五 アメリカ領事館員と刑法にいわゆる「公務員」
旧刑断法12条,旧刑断法60条1項2項,旧刑断法410条1号,裁判所法47条,刑法155条,刑法156条,刑法157条,刑法158条,刑法246条,刑法7条
判旨
非公務員が公務員を介して虚偽の公文書を作成させた場合、刑法157条に規定される文書以外は虚偽公文書作成罪の職務外間接正犯として処罰されない。また、不実の旅券等の交付を受ける行為は詐欺罪ではなく刑法157条2項のみが適用され、対象が日本の公務員でない場合は同条の罪も成立しない。
問題の所在(論点)
1. 公務員でない者が公務員を利用して刑法157条所定の文書以外の虚偽公文書を作成させた場合に、156条の間接正犯が成立するか。 2. 旅券等の不実記載・交付を受ける行為に詐欺罪が成立するか。 3. 外国領事館員への虚偽申立てに刑法157条2項が適用されるか。
規範
事件番号: 昭和25(れ)1375 / 裁判年月日: 昭和26年4月27日 / 結論: 破棄自判
一 経済関係罰則の整備に関する法律第一条の規定と対比して見ると、同条は別表甲号に掲げる経済団体の「役員其ノ他ノ職員ハ罰則ノ適用ニ付テハ之ヲ法令ニ依リ公務ニ従事スル職員ト看做ス」旨を規定しているが同第二条には、かかる規定は存在しない。すなわち、以上各規定の趣旨からみれば、右別表甲号、乙号掲記の経済団体の職員はいずれも本来…
1. 公務員でない者が虚偽の申立てにより公務員に虚偽の公文書を作成させた場合、刑法157条が規定する「公正証書の原本又は免状、鑑札若しくは旅券」に当たらない限り、虚偽公文書作成罪(156条)の間接正犯としては処罰されない。 2. 免状、鑑札、旅券等の資格証明書について不実の記載をさせて交付を受ける行為は、その性質上157条2項の構成要件に包含されるものであり、刑法246条の詐欺罪は成立せず、同条のみが適用される。 3. 刑法157条にいう「公務員」とは、刑法7条の定める日本の公務員を指し、外国の領事館員等はこれに含まれない。
重要事実
被告人は、村役場係員に対し、兵役経験や投票経験がないという虚偽の事実を記載した証明願を提出し、村長名義の虚偽の証明書2通を作成させた。その後、被告人は米国領事館において、この証明書を添えて旅券の下付を申請したが、調査により虚偽が発覚したため交付を受けられなかった。原審は、証明書作成について虚偽公文書作成罪の間接正犯、申請行為について虚偽公文書行使罪、および詐欺未遂罪の成立を認めた。
あてはめ
1. 本件の証明書は刑法157条所定の「公正証書の原本、免状、鑑札、旅券」のいずれにも当たらない。刑法が公文書の無形偽造について157条で限定的に処罰規定を設け、かつ刑を軽くしている趣旨に照らせば、同条以外の文書については非公務員による間接正犯は処罰されない。 2. 旅券等の資格証明書の交付を受ける行為は、157条2項の不実記載の罪に当然に包含される。詐欺罪を適用することは擬律錯誤であり、157条2項のみが検討対象となる。 3. 被告人が虚偽の申立てを行った相手は米国領事館員であり、日本の刑法上の「公務員」には該当しない。したがって、157条2項の罪も成立し得ない。
結論
被告人の行為は、虚偽公文書作成罪の間接正犯、同文書行使罪、および詐欺未遂罪のいずれも構成せず、無罪である。
実務上の射程
公文書の無形偽造について、非公務員による間接正犯(いわゆる職務外間接正犯)の成否を限定した重要判例である。答案上は、157条(電磁的記録含む)に該当しない公文書について、156条の間接正犯の成否が問われた際に「処罰規定の欠如」を理由に否定する根拠として用いる。また、資格証明書の交付行為について詐欺罪の成否が問題となる場面での特別規定(法条競合)の議論にも資する。
事件番号: 昭和23(れ)677 / 裁判年月日: 昭和23年10月28日 / 結論: 棄却
一 地方食糧營團の職員名儀の配給停止證明書は刑法上公務員の作るべき文書とみなされる。 二 昭和一九年法律第四號經濟關係罰則ノ整備ニ關スル法律第一條にいわゆる「團體又ハ營團、金庫若シクハ此等ニ準ズルモノノ役員其ノ他ノ職員ハ罰則ノ適用ニ付テハ之ヲ法令ニ依リ公務ニ從事スル職員ト看做ス」との規定は、かかる團體等は國家總動員法に…
事件番号: 昭和24(れ)856 / 裁判年月日: 昭和25年2月28日 / 結論: 破棄自判
一 按ずるに刑法第七條にいわゆる公務員は官制職制によつて其職務權限が定まつているものに限らずすべて法令によつて公務に從事する職員を指稱するものであつて其法令中には單に行政内部の組織作用を定めた訓令と雖も抽象的の通則を規定しているものであれば之を包含するものであることは大審院判例の示すところであつて、今之れを改むべき理由…
事件番号: 昭和25(れ)216 / 裁判年月日: 昭和25年11月2日 / 結論: 棄却
原判決が被告人Aの判示虚偽公文書作成の所為に加功した所為に対し、刑法第六五条一項の適用を明示しなかつたことは所論のとおりである。しかし、同条項のごとき総則規定は特にこれが適用を明示しなくとも、これを適用したことを看取し得れば差支ないものといわなければならない。そして原判決は、その判示冒頭において被告人は昭和二一年三月三…
事件番号: 昭和25(れ)1547 / 裁判年月日: 昭和26年2月27日 / 結論: 棄却
原判決の確定した事実によれば被告人はA村長B作成名義の同村長の氏名捺印ある転出証明書用紙(但し転出者欄を空白としたもの)一八枚を利用し、その各転出者欄中の空欄に判示C外一七名の各氏名、年令等をそれぞれ擅に記入して同村長作成名義の右C外一七名に関する各転出証明書を作成したというのであるから被告人の判示各所為は公文書の変造…