一 按ずるに刑法第七條にいわゆる公務員は官制職制によつて其職務權限が定まつているものに限らずすべて法令によつて公務に從事する職員を指稱するものであつて其法令中には單に行政内部の組織作用を定めた訓令と雖も抽象的の通則を規定しているものであれば之を包含するものであることは大審院判例の示すところであつて、今之れを改むべき理由を認めない、(大審院大正五年(れ)第二一七九號大正五年一一月六日刑事二部判決、大正八年(れ)第一八〇八號、大正九年一二月一〇日刑事一部判決) 二 昭和二〇年一一月五日勅令大六二一號戰災復興院官制第二條に戰災復興院に左の職員を置くと規定し總裁次長、局長、營繕技監、事務官、理事官、技師屬技師を舉げているのみで雇員を舉げていないことは所論の通りである。しかし昭和二三年三月一五日戰災復興院訓令第一號戰災復興院特別建設出張所處務規程第二條は所長は戰災復興院總裁の指揮監督を受け所務を掌理するとあり、同第三條には所長は雇員以下の任免を専行することができると規定している點に鑑みるときは、雇員たる身分を有し、建設資村需要者割當證明書を發行することを擔當していた被告人は、刑法第七條に所謂公務員であるといわなまればならない。論旨は被告人は些末な機械的事務を擔當していたもので何等智能的創意を要する事務を擔當していないから其擔當事務の性質から見ても公務員といえないと主張する。しかし原審の認定した事實によれば被告山の擔當事務は先きに説明した通り單純な機械的肉体的の勞働ではなく、普通に所謂精神的勞働に屬する一般事務と見るべきであるから仕事の性質から見て公務員でないということは當を得ない。 三 論旨は被告人が判示の如く板硝子割當證明書が多く判示Aの店にまわる様に仕向けたことは被告人が戰災復興院B出張所雇として實際擔當していた職務とは何等關係なく從つて被告人が判示Aから判示のような饗應を受けたとしても其職務に關し賄賂を收受したことにはならないと主張する。なるほど判示板硝子割當證明書を所持している者が或特定の店舗から板硝子を買受けるように仕向けることは厳密にいえば其職務の範圍に屬するものとはいい得ないであらう、しかし被告人が權限に屬する職務執行に當其職務執行と密接な關係を有する行爲を爲すことにより相手方より金品を收受すれば賄賂罪の成立をさまたげるものではない、從つて論旨は理由がない。 四 原判決は被告人が判示Aから(一)昭和二二年一〇月中旬から同年一一月初旬までの間三回に亘り一人分合計一五三五圓に相當する酒食の饗應を受け(二)同年一一月二九日から一二月一日までの間に一人分六〇二五圓に相當する酒食遊興等の饗應を受けたことを判示しその擬律において判示收受した賄賂はこれを没收することができないから其價格を追徴する旨を説示している點から見て右金額を被告人から追徴したものであることが認められる、然るに右金額は合計七五六〇圓であることは算數上明らかであるに拘わらず原判決は被告人に對し金七五六〇圓より一〇〇圓多い七六六〇圓の追徴を主文において言渡しているもので正しく本來追徴し得るべき額より過大な金額を追徴したことになり原判決は主文と理由との間に齟齬があるから論旨は理由がある。 五 行使の目的を以て、作成權限がないにかかわらず公務所亦は公務員の印章若くは署名を冒用して公務所亦は公務員の作るべき文書を作成すれば、たとえ該文書を作成した者が公務員であつても刑法第一五九條第一項の罪が成立する。
一 刑法第七條にいわゆる公務員の意義 二 戰災復興院特別建設出張所處務規程第二條にいわゆる雇員と公務員 三 公務員の職務執行と密接な關係にある行爲に對する金品の收受と賄賂罪の成立 四 追徴金額について主文と理由との間に齟齬ある判決の違法 五 公務員による公文書僞造罪の成否
刑法7條,刑法197條1項,刑法19條の2,刑法155條1項,昭和20年勅令第621號戰災復興院官制2條,昭和23年戰災復興院訓令1號戰災復興院特別建設出張所庶務規程2條,昭和23年戰災復興院訓令1號戰災復興院特別建設出張所庶務規程3條刑法7條,舊刑訴法410條19號
判旨
刑法上の公務員は、法令により公務に従事する職員を指し、その法令には抽象的通則を定めた訓令も含まれる。また、公務員が作成権限なく公用印章を用いて公文書を作成した場合は、有印公文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和29(あ)466 / 裁判年月日: 昭和31年7月13日 / 結論: 棄却
原判決において、京都市a区の役所の外国人登録事務の一係員たる被告人Aが、外国人登録証明を受ける資格のない者に同証明書を交付する目的で、不正の同証明書交付申請を故らに正当のものとして受理した上、情を知らない他の同係員の手により同区長作成名義の同証明書を調製せしめ、かつ同区長の職印を冒捺させて、同証明書を偽造した事実を認定…
問題の所在(論点)
1. 行政内部の訓令に基づき一般事務に従事する「雇員」が、刑法上の公務員に該当するか。 2. 職務執行そのものではないが、それと密接に関連する行為に対して利益を得た場合、賄賂罪が成立するか。 3. 事務担当者が名義人の印章を冒用して公文書を作成した場合、公文書偽造罪(155条1項)と虚偽公文書作成罪(156条)のいずれが成立するか。
規範
1. 刑法7条1項の「公務員」とは、官制・職制による職務権限を持つ者に限らず、法令により公務に従事する職員を指す。この法令には、行政内部の組織作用を定めた訓令であっても、抽象的通則を規定しているものは含まれる。また、事務の性質が機械的・肉体的労働ではなく、精神的労務に属する一般事務であれば、職務上の創意の有無を問わず公務員にあたる。 2. 賄賂罪における「職務」には、公務員の権限に属する職務執行そのものだけでなく、これと密接な関係を有する行為も含まれる。 3. 作成権限のない者が、行使の目的で公務所・公務員の名義を冒用し、公印等を使用して文書を作成した場合には、たとえ本人が公務員であっても、刑法155条1項の公文書偽造罪が成立する。
重要事実
戦災復興院の特別建設出張所に勤務する雇員であった被告人は、建築資材割当証明書の発行業務を担当していた。被告人は、特定の販売店から資材を購入するよう需要者に仕向け、その見返りに当該店主から酒食の饗応(賄賂)を受けた。また、被告人は証明書の発行事務に従事していたが、証明書の作成権限(名義)は出張所長に帰属していた。しかし、被告人は所長の印章を自由に使える立場にあることを利用し、権限がないにもかかわらず勝手に所長名義の割当証明書を作成し発行した。
あてはめ
1. 被告人は、戦災復興院の訓令に基づく処務規程により任免・配置され、割当証明書の発行という精神的労務に従事していた。これは単なる肉体労働ではなく、法令(訓令を含む)に基づき公務に従事する職員といえるため、刑法上の公務員にあたる。 2. 被告人が証明書所持者に対し特定の店で買うよう仕向けた行為は、厳密には職務範囲外だが、権限内の職務執行(証明書発行)と密接な関係を有する行為である。したがって、これに関し利益を受けることは職務に関し賄賂を収受したものと認められる。 3. 割当証明書の作成権限は出張所長にあり、被告人に移譲された事実は認められない。被告人が所長の印章を冒用して文書を作成した行為は、作成権限のない者による名義の冒用であり、有印公文書偽造罪に該当する。公務員による犯行であっても、名義を偽る以上は偽造罪(155条1項)が成立し、内容のみを虚偽とする虚偽公文書作成罪(156条)にはならない。
結論
被告人は刑法上の公務員に該当し、その行為には収賄罪および有印公文書偽造罪・同行使罪が成立する。
実務上の射程
公務員定義の広範性(訓令準拠)、収賄罪における職務密接関連性、および公務員による偽造罪の成立範囲を示す重要判例である。特に、事務担当者が決済権者の印章を勝手に用いた場合は156条ではなく155条の問題となる点は、答案上での罪名選択において極めて重要である。
事件番号: 昭和33(あ)1735 / 裁判年月日: 昭和34年8月28日 / 結論: 棄却
A鉄道管理局B電力区助役として区長を補佐する傍ら同管理局から出納員もしくは事務助役出納員として指命され、部内職員の給料、族費等の交付、保管等対内的な出納事務には従事するが、同電力区助役もしくは右出納員名義をもつて対外部関係に関する公文書を作成すべき一般的職務権限を有しない被告人が、行使の目的をもつて内容虚偽の電柱代金代…
事件番号: 昭和31(あ)2106 / 裁判年月日: 昭和34年6月30日 / 結論: 棄却
上田市公安委員会の補助機関として、法定の要件を備えた者に対する運転免許証の作成交付の事務を担当していた上田市警察署長の事務補助者として運転免許証の作成交付の事務を担当していた警察官(巡査)が、法定の要件を備えていない無資格者に対する自動車運転免許証を擅に作成するときは、公文書偽造罪を構成する。
事件番号: 昭和26(あ)1335 / 裁判年月日: 昭和28年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員が架空の工事を捏造し、虚偽の人夫賃請求書を提出して県から金員を騙取した場合、それが予算の範囲内であっても、正当な権利行使とはいえず詐欺罪が成立する。また、職務権限に関連して金品を受領した場合は、社交的儀礼の範囲を超えない限り収賄罪が成立する。 第1 事案の概要:富山県B改良事務所長である被告…
事件番号: 昭和25(れ)1375 / 裁判年月日: 昭和26年4月27日 / 結論: 破棄自判
一 経済関係罰則の整備に関する法律第一条の規定と対比して見ると、同条は別表甲号に掲げる経済団体の「役員其ノ他ノ職員ハ罰則ノ適用ニ付テハ之ヲ法令ニ依リ公務ニ従事スル職員ト看做ス」旨を規定しているが同第二条には、かかる規定は存在しない。すなわち、以上各規定の趣旨からみれば、右別表甲号、乙号掲記の経済団体の職員はいずれも本来…