原判決において、京都市a区の役所の外国人登録事務の一係員たる被告人Aが、外国人登録証明を受ける資格のない者に同証明書を交付する目的で、不正の同証明書交付申請を故らに正当のものとして受理した上、情を知らない他の同係員の手により同区長作成名義の同証明書を調製せしめ、かつ同区長の職印を冒捺させて、同証明書を偽造した事実を認定し、これを刑法一五五条の偽造罪に問擬したことは、相当といわなければならない。
公務員が情を知つて故らに外国人登録証明書交付申請書を受領し、情を知らない他の公務員をして同証明書を調製させた場合の擬律。
刑法155条
判旨
公務員が、職務上の権限がないにもかかわらず、補助者としての立場を利用して、情を知らない上司や同僚を道具として利用し、虚偽の内容を含む公文書を作成させた場合、公文書偽造罪が成立する。
問題の所在(論点)
公務員が補助事務に従事する立場を利用し、情を知らない権限者等を通じて虚偽の公文書を作成させた場合、虚偽公文書作成罪(刑法156条)ではなく、公文書偽造罪(刑法155条)が成立するか。
規範
作成権限のない者が、情を知らない作成権限者(またはその補助者)を機械的に利用して公文書を作成させる行為は、間接正犯の法理により、刑法155条1項の公文書偽造罪を構成する。
重要事実
京都市の区役所で外国人登録事務を担当していた被告人Aは、登録資格のない者に証明書を交付する目的で、不正な申請を正当なものとして受理した。Aは、情を知らない他の係員に区長名義の証明書を調製させ、かつ区長の職印を冒捺させて、内容が虚偽である外国人登録証明書を作成させた。
事件番号: 昭和24(れ)856 / 裁判年月日: 昭和25年2月28日 / 結論: 破棄自判
一 按ずるに刑法第七條にいわゆる公務員は官制職制によつて其職務權限が定まつているものに限らずすべて法令によつて公務に從事する職員を指稱するものであつて其法令中には單に行政内部の組織作用を定めた訓令と雖も抽象的の通則を規定しているものであれば之を包含するものであることは大審院判例の示すところであつて、今之れを改むべき理由…
あてはめ
本件において、被告人Aは外国人登録事務の一係員に過ぎず、区長名義の証明書を作成する固有の権限を有していなかった。Aは、情を知らない他の係員を手足として利用し、本来作成されるべきでない証明書を外形上真正な公文書として完成させている。これは単なる内容の虚偽(無権限者による虚偽記載)にとどまらず、作成権限がない者が他人名義を冒用して文書を作成したのと同視できる。したがって、作成権限の逸脱がある以上、公文書偽造罪が成立すると解される。
結論
被告人Aの行為は刑法155条1項の公文書偽造罪に該当する。また、共同被告人間で刑の軽重があっても、個別の情状を考慮した結果であれば憲法37条1項には反しない。
実務上の射程
補助公務員による虚偽文書作成が「偽造」にあたるか「虚偽公文書作成」にあたるかを区別する重要判例である。作成権限(名義人からの委任の範囲)がない者が、道具を利用して作成させた場合は偽造となる。答案上は、まず作成権限の有無を確認し、権限外であれば間接正犯の枠組みで偽造罪を検討する際に引用する。
事件番号: 昭和31(あ)2106 / 裁判年月日: 昭和34年6月30日 / 結論: 棄却
上田市公安委員会の補助機関として、法定の要件を備えた者に対する運転免許証の作成交付の事務を担当していた上田市警察署長の事務補助者として運転免許証の作成交付の事務を担当していた警察官(巡査)が、法定の要件を備えていない無資格者に対する自動車運転免許証を擅に作成するときは、公文書偽造罪を構成する。
事件番号: 昭和29(あ)3851 / 裁判年月日: 昭和32年10月4日 / 結論: 棄却
作成権限者たる公務員を補佐して公文書の起案を担当する公務員が、行使の目的で内容虚偽の公文書を起案し、情を知らない右上司を利用してこれを完成した場合は、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。
事件番号: 昭和26(あ)1335 / 裁判年月日: 昭和28年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員が架空の工事を捏造し、虚偽の人夫賃請求書を提出して県から金員を騙取した場合、それが予算の範囲内であっても、正当な権利行使とはいえず詐欺罪が成立する。また、職務権限に関連して金品を受領した場合は、社交的儀礼の範囲を超えない限り収賄罪が成立する。 第1 事案の概要:富山県B改良事務所長である被告…
事件番号: 昭和26(れ)1917 / 裁判年月日: 昭和26年10月26日 / 結論: 棄却
原審相被告人A同Bの両名は、いずれも舞鶴市長の補助機関として同市役所西支所において、転入転出世帯員の異動証明、諸配給の通帳交付等の事務に従事していたというのであつて、所論の如き市長名義の独立した公文書作成の権限を有しいたものではない。してみれば、被告人が右両名と共謀して原判示第七及び第一一の一の如く、壇に転出証明書家庭…