上田市公安委員会の補助機関として、法定の要件を備えた者に対する運転免許証の作成交付の事務を担当していた上田市警察署長の事務補助者として運転免許証の作成交付の事務を担当していた警察官(巡査)が、法定の要件を備えていない無資格者に対する自動車運転免許証を擅に作成するときは、公文書偽造罪を構成する。
公文書偽造罪の成立する事例。
刑法155条1項
判旨
公務員であっても、公文書の作成権限を有する機関の事務補助者に過ぎない者が、その名義を冒用して無資格者に文書を作成する行為は、公文書偽造罪を構成する。偽造の完成には、外見上権限ある者によって作成された真正な公文書と信じさせる程度の形式を備えれば足りる。
問題の所在(論点)
公文書の作成権限を有しない事務補助者が、作成権限を有する機関の名義を用いて文書を作成する行為が、刑法155条1項の公文書偽造罪に該当するか。
規範
公文書偽造罪における「偽造」とは、作成権限を有しない者が他人名義を冒用して文書を作成することをいう。作成権限の有無は、当該機関の補助者であるか否かではなく、当該文書を完成させる法的な権限を授与されているかによって判断される。また、偽造の成否は、一般人が外見上、権限ある者によって作成された真正な文書であると信じるに足りる程度の形式を備えているか否かによって決まる。
重要事実
上田市警察署の職員であった被告人は、同市警察署長の事務補助者として、法定の要件を備えた者に対する自動車運転免許証の作成交付事務を担当していた。しかし、本来の免許発行権限は上田市公安委員会にあり、警察署長はその事務処理を行う補助機関に過ぎなかった。被告人は、法定の要件を満たさない無資格者に対し、公安委員会の印章を捺印して運転免許証を勝手に作成した。被告人側は、警察署長が作成権限を有しており、その事務補助者である被告人の行為は偽造にあたらないと主張した。
事件番号: 昭和29(あ)466 / 裁判年月日: 昭和31年7月13日 / 結論: 棄却
原判決において、京都市a区の役所の外国人登録事務の一係員たる被告人Aが、外国人登録証明を受ける資格のない者に同証明書を交付する目的で、不正の同証明書交付申請を故らに正当のものとして受理した上、情を知らない他の同係員の手により同区長作成名義の同証明書を調製せしめ、かつ同区長の職印を冒捺させて、同証明書を偽造した事実を認定…
あてはめ
本件において、自動車運転免許の付与権限は上田市公安委員会に帰属しており、警察署長やその事務補助者である被告人に独立した免許証作成権限は授与されていない。被告人はあくまで事務を補助する立場に過ぎないため、公安委員会の名義を冒用して文書を作成することは「権限のない者」による作成にあたる。さらに、当該免許証には公安委員会の印章が押捺されており、外見上は真正な公文書と信じさせるに足りる形式を備えている。署長の認印が欠けていたとしても、真正な公文書としての外観を備えている以上、偽造罪の成立には影響しない。
結論
事務補助者が作成権限を越えて名義を冒用した行為は、公文書偽造罪を構成する。
実務上の射程
補助公務員による偽造(有印公文書偽造罪か虚偽公文書作成罪かの区別)が問題となる場面で活用できる。作成権限の有無を実質的な事務担当の有無ではなく、法的な名義の決定権で判断する実務の立場を明確に示した判例である。
事件番号: 昭和33(あ)1735 / 裁判年月日: 昭和34年8月28日 / 結論: 棄却
A鉄道管理局B電力区助役として区長を補佐する傍ら同管理局から出納員もしくは事務助役出納員として指命され、部内職員の給料、族費等の交付、保管等対内的な出納事務には従事するが、同電力区助役もしくは右出納員名義をもつて対外部関係に関する公文書を作成すべき一般的職務権限を有しない被告人が、行使の目的をもつて内容虚偽の電柱代金代…
事件番号: 昭和24(れ)856 / 裁判年月日: 昭和25年2月28日 / 結論: 破棄自判
一 按ずるに刑法第七條にいわゆる公務員は官制職制によつて其職務權限が定まつているものに限らずすべて法令によつて公務に從事する職員を指稱するものであつて其法令中には單に行政内部の組織作用を定めた訓令と雖も抽象的の通則を規定しているものであれば之を包含するものであることは大審院判例の示すところであつて、今之れを改むべき理由…
事件番号: 昭和30(あ)3708 / 裁判年月日: 昭和33年4月11日 / 結論: 棄却
村長がその名義の内容虚偽の公文書を作成した場合は、それが専ら第三者の利をはかる等不法な意思に出でその職務権限の乱用と認められる場合であつても、刑法第一五六条の罪が成立し、同法第一五五条の罪が成立するものではない