判旨
公務員が架空の工事を捏造し、虚偽の人夫賃請求書を提出して県から金員を騙取した場合、それが予算の範囲内であっても、正当な権利行使とはいえず詐欺罪が成立する。また、職務権限に関連して金品を受領した場合は、社交的儀礼の範囲を超えない限り収賄罪が成立する。
問題の所在(論点)
1. 架空の請求により公金を支出させる行為が、予算枠内の執行として詐欺罪の成立を否定されるか。 2. 直接の契約権限がない場合であっても、実質的な指導監督権限に基づき賄賂罪における「職務」との関連性が認められるか。 3. 受領した金員が「社交的儀礼」として違法性を阻害される範囲。
規範
1. 詐欺罪について:架空の事実に基づき、虚偽の公文書を作成・行使して公金を出金させる行為は、たとえ当該公金の支出が予算の総額範囲内であったとしても、正当な権限に基づく権利行使には当たらず、欺罔行為による金員の騙取として詐欺罪を構成する。 2. 職務関連性(収賄)について:公務員がその職務権限(直接の契約権限に限らず、実質的な指導監督権限を含む)に関連して金員を授受した場合、それが社交的儀礼の範囲を逸脱するものである限り、賄賂罪の成立を妨げない。
重要事実
富山県B改良事務所長である被告人Aは、所員Fと共謀し、実体のない「幽霊人夫」を計上した架空の工事について内容虚偽の人夫賃請求書を作成した。これを県出納局に提出して係員を欺き、人夫賃名目で多額の公金を騙取した。また、Aは同事務所が管轄する工事用材の伐採・搬出を請け負っていた業者Dらから、指導監督上の便宜供与等に関連して金員を受領していた。弁護人は、予算内での支出であり正当な権利行使であることや、直接の請負契約関係がなく職務権限がないこと、金員は社交的儀礼に留まること等を主張して争った。
あてはめ
1. 被告人らは架空工事という虚偽の事実を捏造し、県を欺いて金員を交付させており、支払名目自体が虚偽である以上、予算の範囲内であるか否かを問わず欺罔行為及び不法領得の意思が認められ、詐欺罪が成立する。 2. 改良事務所長は、直営工事の材料納入検査等を通じて業者の作業を実質的に指導監督する立場にあり、法律上の直接の契約根拠の有無にかかわらず、その職務権限は認められる。 3. 授受された金員は、当時の諸状況に照らし、単なる社交的儀礼の範囲を明らかに逸脱しており、職務に関する対価としての賄賂性を有する。
結論
被告人らの行為は詐欺罪、虚偽公文書作成・行使罪、および収賄(または贈賄)罪を構成する。各上告を棄却し、有罪とした原判決を維持する。
事件番号: 昭和28(あ)4109 / 裁判年月日: 昭和30年11月18日 / 結論: 棄却
県財務事務所長らが、仮空の請求書にもとずき虚偽の支払確定通知書および支払通知書を作成行使して県支金庫係員を欺罔し現金を交付させる方法により、同事務所の予算を現金化した場合に、それが予算上の一切の拘束をはなれ交際費や接待費をふくむどんな用途にでもまつたく同人らの意のままに支配費消しうる違法な資金のプールを作る意図で常時大…
実務上の射程
予算執行の形式的適法性を主張しても、実態のない請求による公金取得は詐欺となることを示した。また、賄賂罪における「職務」について、法的な直接の権限だけでなく、事務掌理上の実質的な指導監督権限も含まれるという実務上の広範な解釈を裏付ける事例として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)3851 / 裁判年月日: 昭和32年10月4日 / 結論: 棄却
作成権限者たる公務員を補佐して公文書の起案を担当する公務員が、行使の目的で内容虚偽の公文書を起案し、情を知らない右上司を利用してこれを完成した場合は、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。
事件番号: 昭和29(あ)466 / 裁判年月日: 昭和31年7月13日 / 結論: 棄却
原判決において、京都市a区の役所の外国人登録事務の一係員たる被告人Aが、外国人登録証明を受ける資格のない者に同証明書を交付する目的で、不正の同証明書交付申請を故らに正当のものとして受理した上、情を知らない他の同係員の手により同区長作成名義の同証明書を調製せしめ、かつ同区長の職印を冒捺させて、同証明書を偽造した事実を認定…
事件番号: 昭和24(れ)856 / 裁判年月日: 昭和25年2月28日 / 結論: 破棄自判
一 按ずるに刑法第七條にいわゆる公務員は官制職制によつて其職務權限が定まつているものに限らずすべて法令によつて公務に從事する職員を指稱するものであつて其法令中には單に行政内部の組織作用を定めた訓令と雖も抽象的の通則を規定しているものであれば之を包含するものであることは大審院判例の示すところであつて、今之れを改むべき理由…
事件番号: 昭和28(あ)3367 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実在しない架空の公務員名義を用いた文書であっても、一般人が公務員により作成された真正な文書と誤認するに足りる外観を備えている場合には、公文書偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない「A検査員B」という架空の公務員名義を用いて文書を作成し、これを行使した。第一審判決および原…