県財務事務所長らが、仮空の請求書にもとずき虚偽の支払確定通知書および支払通知書を作成行使して県支金庫係員を欺罔し現金を交付させる方法により、同事務所の予算を現金化した場合に、それが予算上の一切の拘束をはなれ交際費や接待費をふくむどんな用途にでもまつたく同人らの意のままに支配費消しうる違法な資金のプールを作る意図で常時大規模に行われたものであり、単なる財政法規違反としての予算の流用ないしは公金の移管の域にとどまるものとみることができないときは、たとえ私腹をこやしまたは私用に濫費することを本来の目的とするものでなくても、詐欺罪の成立を肯定しうる。
予算の違法な現金化と詐欺罪
刑法246条1項
判旨
予算を目的外に使用するために欺罔行為を用いて公金を交付させた場合、単なる財政法規違反に留まらず、その資金を意のままに支配費消する意図が認められれば詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
予算の目的外使用を目的として、事実を偽って公金の交付を受けた場合、単なる財政法規違反に留まるのか、それとも刑法上の詐欺罪(246条1項)が成立するのか。
規範
予算の現金化による公金の取得行為において、予算上の拘束を離れ、交際費や接待費を含むいかなる用途にも意のままに支配費消し得る違法な資金をプールする意図がある場合には、単なる財政法規違反(予算の流用や公金の移管)を超え、詐欺罪における「不法領得の意思」および「欺罔による財物の交付」が認められる。
重要事実
被告人等は、本来の予算目的とは異なる用途(交際費や接待費等)に充てるため、予算上の拘束を受けずに自由に使用できる違法な資金プールを作成しようと計画した。その手段として、常時かつ大規模に予算の現金化を行い、公金を交付させた。弁護人は、これが単なる財政法規上の流用や移管に過ぎず、刑事上の詐欺罪には当たらないと主張して上告した。
事件番号: 昭和26(あ)1335 / 裁判年月日: 昭和28年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員が架空の工事を捏造し、虚偽の人夫賃請求書を提出して県から金員を騙取した場合、それが予算の範囲内であっても、正当な権利行使とはいえず詐欺罪が成立する。また、職務権限に関連して金品を受領した場合は、社交的儀礼の範囲を超えない限り収賄罪が成立する。 第1 事案の概要:富山県B改良事務所長である被告…
あてはめ
被告人等の行為は、単に予算科目を誤って流用したという程度のものではない。判決によれば、被告人等は「予算上の一切の拘束を離れて」「意のままに支配費消し得る」状態を作る意図を有していた。このような意図の下で「大規模に予算の現金化」を行ったことは、交付者(国等)を欺いて本来交付されるべきではない態様で公金を占有下に移したものといえる。したがって、公金の適正な支出・管理という保護法益を侵害する詐欺罪の構成要件を充足する。
結論
被告人等の行為は単なる予算の流用には当たらず、詐欺罪が成立する。
実務上の射程
公金詐取事案において、被告人側が「便宜上の予算流用であり不法領得の意思がない」と主張した場合の反論として有用である。特に、使途の自由度(拘束の逸脱)や計画性(大規模・常時)といった事情から、不法領得の意思を推認する枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)3367 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実在しない架空の公務員名義を用いた文書であっても、一般人が公務員により作成された真正な文書と誤認するに足りる外観を備えている場合には、公文書偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない「A検査員B」という架空の公務員名義を用いて文書を作成し、これを行使した。第一審判決および原…
事件番号: 昭和29(あ)3851 / 裁判年月日: 昭和32年10月4日 / 結論: 棄却
作成権限者たる公務員を補佐して公文書の起案を担当する公務員が、行使の目的で内容虚偽の公文書を起案し、情を知らない右上司を利用してこれを完成した場合は、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。
事件番号: 昭和29(あ)466 / 裁判年月日: 昭和31年7月13日 / 結論: 棄却
原判決において、京都市a区の役所の外国人登録事務の一係員たる被告人Aが、外国人登録証明を受ける資格のない者に同証明書を交付する目的で、不正の同証明書交付申請を故らに正当のものとして受理した上、情を知らない他の同係員の手により同区長作成名義の同証明書を調製せしめ、かつ同区長の職印を冒捺させて、同証明書を偽造した事実を認定…
事件番号: 昭和31(あ)153 / 裁判年月日: 昭和31年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】虚偽公文書作成罪(刑法156条)の客体である「公務員がその職務に関し作成すべき文書」とは、公務員が職務権限に基づき作成する文書全般を指し、その内容や形式は限定されない。 第1 事案の概要:被告人が関与した特定の文書(本件文書)について、これが刑法156条に規定される「公務員の職務に関する文書」に該…