判旨
戸籍の作成行為について、被告人らに行使の目的がない場合には、公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)等は成立しない。
問題の所在(論点)
戸籍等の公正証書原本に不実の記載をさせた場合であっても、被告人らにおいて「行使の目的」が認められないときに、公正証書原本不実記載罪等の罪が成立するか。
規範
公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)等の成立には、公務員に対し虚偽の申立てをして証書の原本等に不実の記載をさせるだけでなく、それを行使する目的(行使の目的)が必要であると解される。
重要事実
被告人および相被告人Aは、不実の内容を含む原戸籍を作成する行為に及んだが、当該戸籍の作成行為については、被告人らにおいて「行使の目的」が存在していなかった。原判決は、この目的の欠如を理由として、罪とならないことを前提に判断を下していた。
あてはめ
本件における原戸籍の作成行為は、被告人および相被告人Aにおいて「行使の目的」がなかったと認定されている。刑法157条等の規定が保護しようとする公共の信用に対する危険が、行使の目的を欠く場合には肯定できないことから、同目的を欠く本件行為について有罪とすることはできない。
結論
行使の目的がない以上、原戸籍の作成行為は罪とならず、被告人の上告を棄却する。
実務上の射程
文書偽造罪等と同様に、公正証書原本不実記載罪においても「行使の目的」が要件となることを確認する際の根拠として機能する。答案上は、不実記載等の客観的態様が認められる場合であっても、主観的要件としての目的の有無を峻別して検討すべきことを示す射程を持つ。
事件番号: 昭和40(あ)12 / 裁判年月日: 昭和41年5月26日 / 結論: 破棄差戻
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事件番号: 昭和38(あ)1593 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、…
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【結論(判旨の要点)】不動産の所有権移転につき、金融を得やすくする等の目的で、真実権利を移転する意思をもってなされた登記申請は、仮に売買を原因とする形式を採ったとしても公正証書原本不実記載罪における「不実の記録」には当たらない。権利移転の実体的な効果意思が認められる限り、虚偽の意思表示による不実の記載とはいえない。 第…
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事件番号: 昭和45(あ)1473 / 裁判年月日: 昭和46年7月7日 / 結論: 棄却
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