判旨
公正証書原本不実記載罪において、申請書類に登記義務者の委任状を欠く等の形式的瑕疵があっても、登記官がこれを看過して受理し、実体関係のない不実の記載がなされた以上、同罪が成立する。
問題の所在(論点)
登記申請手続において、登記義務者の委任状を欠くといった形式的な不備がある場合に、登記官がこれを看過してなされた不実の登記について、公正証書原本不実記載罪が成立するか。申請手続の適法性が同罪の成否に影響を及ぼすかが問題となる。
規範
公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)における「不実の申立て」とは、登記官等に対して、客観的真実(実体関係)に反する記載をさせることをいう。申請手続に形式的な瑕疵があったとしても、登記官がこれを看過して受理し、その結果として不実の内容が公文書に記載されたのであれば、同罪の構成要件を充足する。
重要事実
被告人は、虚偽の仮登記申請を行うにあたり、本来必要とされる登記義務者Aの委任状を添付せず、代わりに登記義務者ではない被告人自身名義の委任状を添付して提出した。しかし、窓口の登記官はこの瑕疵を看過し、当該申請を正当なものとして受理した。これにより、実体関係のない不実の仮登記がなされるに至った。
あてはめ
本件において、被告人が提出した仮登記申請書には登記義務者Aの委任状が欠けており、手続上は瑕疵がある。しかし、登記官がこの瑕疵を看過して受理し、登記簿に記載を行った以上、申請内容である権利関係の存否が客観的事実に反するのであれば、それは「不実の申立て」にあたる。手続の瑕疵は、登記官が受理を拒否すべき事情にはなり得るが、一旦受理されて不実の記載がなされた以上は、公文書に対する公共の信用を害した事実に変わりはない。したがって、申請書類の不備を理由に同罪の成立が否定されることはない。
結論
登記申請に形式的瑕疵があっても、登記官がこれを看過して受理し、実体関係のない不実の記載がなされたときは、公正証書原本不実記載罪が成立する。
事件番号: 昭和41(あ)2069 / 裁判年月日: 昭和46年2月23日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の所有権移転につき、金融を得やすくする等の目的で、真実権利を移転する意思をもってなされた登記申請は、仮に売買を原因とする形式を採ったとしても公正証書原本不実記載罪における「不実の記録」には当たらない。権利移転の実体的な効果意思が認められる限り、虚偽の意思表示による不実の記載とはいえない。 第…
実務上の射程
登記申請における「形式的審査権」と「不実記載の成否」の関係を明確にした。申請者の適格や添付書類の不備があっても、不実の記載が行われたという結果が発生すれば同罪の成立を認める。司法試験では、虚偽の申請が形式的瑕疵を伴うケース(代理権の欠如や本人確認書類の不備等)での検討に有用である。
事件番号: 昭和38(あ)1593 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、…
事件番号: 昭和31(あ)2416 / 裁判年月日: 昭和35年1月11日 / 結論: 棄却
たとい不動産の真実の所有者であつても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因としかつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原…
事件番号: 昭和63(あ)756 / 裁判年月日: 平成元年2月17日 / 結論: 棄却
不動産登記法三〇条、三一条に基づく官公署の登記の嘱託も、刑法一五七条一項にいう「申立」に当たる。
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…