不動産登記法三〇条、三一条に基づく官公署の登記の嘱託も、刑法一五七条一項にいう「申立」に当たる。
官公署の不動産登記の嘱託と刑法一五七条一項にいう「申立」
刑法157条1項,不動産登記法30条,不動産登記法31条
判旨
官公署による登記の嘱託手続であっても、私人が登記の申請手続をする場合と同様に、刑法157条1項にいう「申立て」に当たると解される。
問題の所在(論点)
官公署が行う登記の「嘱託」が、刑法157条1項の公正証書原本不実記載罪における「申立て」に該当するか。
規範
刑法157条1項(公正証書原本不実記載罪)の構成要件である「申立て」とは、公務員に対し、虚偽の記載をさせるべき直接・間接の働きかけをすることをいい、私人が行う登記の申請手続のみならず、官公署がその権限に基づいて行う登記の嘱託手続もこれに含まれる。
重要事実
被告人は、自己所有の不動産を第三者に売却した。しかし、土地開発公社事務局長と共謀した上で、事情を知らない同公社職員を介し、不動産登記法に基づき当該不動産を「被告人から公社へ」、次いで「公社から第三者へ」それぞれ売却したとする内容虚偽の所有権移転登記の嘱託手続を行わせた。これにより、情を知らない登記官をして、不動産登記簿原本に不実の記載をさせた。
事件番号: 昭和31(あ)2416 / 裁判年月日: 昭和35年1月11日 / 結論: 棄却
たとい不動産の真実の所有者であつても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因としかつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原…
あてはめ
本件では、被告人と共謀した土地開発公社側が、実際には公社が介在しない売買であるにもかかわらず、公社を経由する形での虚偽の所有権移転登記を嘱託している。官公署による登記の嘱託は、その性質上、登記官に対して特定の記載を求める行為であり、実質的に私人が行う登記申請手続と何ら変わりはない。したがって、公社職員を介した本件各嘱託手続は、同条項にいう「申立て」に該当すると評価される。
結論
官公署による登記の嘱託手続も刑法157条1項にいう「申立て」に当たるため、被告人の行為について公正証書原本不実記載罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、「申立て」の意義を広く解釈し、申請だけでなく嘱託も含むことを明示したものである。答案上は、公務員の間接正犯的利用が問題となる場面で、嘱託という形式を理由に「申立て」該当性を否定しないよう注意するための根拠として用いる。中間省略登記を仮装する場合などの典型的な登記犯罪事案で射程が及ぶ。
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…
事件番号: 昭和45(あ)1473 / 裁判年月日: 昭和46年7月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪において、申請書類に登記義務者の委任状を欠く等の形式的瑕疵があっても、登記官がこれを看過して受理し、実体関係のない不実の記載がなされた以上、同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、虚偽の仮登記申請を行うにあたり、本来必要とされる登記義務者Aの委任状を添付せず、代わりに登…
事件番号: 昭和41(あ)2069 / 裁判年月日: 昭和46年2月23日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の所有権移転につき、金融を得やすくする等の目的で、真実権利を移転する意思をもってなされた登記申請は、仮に売買を原因とする形式を採ったとしても公正証書原本不実記載罪における「不実の記録」には当たらない。権利移転の実体的な効果意思が認められる限り、虚偽の意思表示による不実の記載とはいえない。 第…
事件番号: 平成15(あ)1429 / 裁判年月日: 平成16年7月13日 / 結論: 棄却
1 小型船舶の船籍及び総トン数の測度に関する政令(平成13年政令第383号による改正前のもの)8条の2の船籍簿は,刑法157条1項にいう「権利若しくは義務に関する公正証書の原本」に当たる。 2 小型船舶の船籍及び総トン数の測度に関する政令(平成13年政令第383号による改正前のもの)4条1項に基づく船籍票の内容虚偽の書…