被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒解していたとしても、刑法第一五七条第一項の罪の成立を免れない(昭和三一年(あ)第二四一六号同三五年一月一一日第二小法廷決定刑集一四巻一号一頁・大正五年(れ)第一七五三号同六年一〇月一日大審院判決、刑録二三輯一〇三四頁参照)。
不動産の真実の所有者であつても、登記簿上の所有名義人との間に現実に売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させる行為と刑法第一五七条第一項の罪の成否。
刑法157条1項
判旨
真実の所有者が登記名義を自己に移転する場合であっても、現実に売買の事実がないのに虚偽の証書を作成して売買を原因とする不実の登記を完了させたときは、公正証書原本不実記載罪が成立する。
問題の所在(論点)
真実の所有者が、登記名義人との通謀に基づき、実体上の権利関係に合致させる目的で虚偽の原因(売買)による登記を申請した場合、刑法157条1項の公正証書原本不実記載罪が成立するか。
規範
刑法157条1項にいう「不実の記載」とは、権利関係の発生・変更・消滅の原因となる実体的事実と合致しない記載を指す。真実の所有権者が登記名義を回復する場合であっても、登記の原因(売買等)が虚偽であれば、登記簿の公信力を保護する同条の趣旨に照らし、同罪が成立する。
重要事実
被告人は、Aとの間に現実に売買の事実がないにもかかわらず、売買契約が成立した旨の虚偽の証書を作成した。これに基づき、本件建物の登記名義をAから被告人へ移転する登記を行った。なお、被告人は本件建物の真実の所有者であり、Aも将来その登記名義を被告人名義に変更することをあらかじめ了解していた。
事件番号: 昭和31(あ)2416 / 裁判年月日: 昭和35年1月11日 / 結論: 棄却
たとい不動産の真実の所有者であつても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因としかつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原…
あてはめ
被告人は、真実の所有者として名義を回復しようとする意図があり、かつ名義人Aの了解も得ていた。しかし、登記簿には「売買」が原因であると記載されているところ、実際には売買の事実は存在しない。登記制度は取引の安全を図るため原因関係の正確性も重視されるべきであり、権利の帰属が真実であっても、その発生原因たる法律関係が虚偽である以上、客観的事実に反する「不実の記載」にあたると評価される。
結論
被告人に刑法157条1項の公正証書原本不実記載罪が成立する。
実務上の射程
本判決は「実体権利合致説」を否定し、原因関係の不実も処罰対象とする立場を明示している。司法試験においては、権利関係(帰属)さえ合致していれば不可罰とする反対説を意識しつつ、本判例の立場から、登記制度の信頼保護を重視してあてはめる際に活用すべきである。
事件番号: 昭和41(あ)2069 / 裁判年月日: 昭和46年2月23日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の所有権移転につき、金融を得やすくする等の目的で、真実権利を移転する意思をもってなされた登記申請は、仮に売買を原因とする形式を採ったとしても公正証書原本不実記載罪における「不実の記録」には当たらない。権利移転の実体的な効果意思が認められる限り、虚偽の意思表示による不実の記載とはいえない。 第…
事件番号: 昭和38(あ)1593 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、…
事件番号: 昭和27(あ)6836 / 裁判年月日: 昭和31年3月9日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決の確定した事実は「…(判決参照)…」というのである。しかし、本件記録に徴すれば、Aが、被告人のBに対する前記第五六一九一号公正証書による貸金債権六五〇〇〇円の譲渡契約を被告人との間に締結したのは、Aにおいて、右貸金債権が未だ消滅せず尚存在するものと信じたが故か、或は被告人において右公正証書の執行正本を入手し得…
事件番号: 平成15(あ)1429 / 裁判年月日: 平成16年7月13日 / 結論: 棄却
1 小型船舶の船籍及び総トン数の測度に関する政令(平成13年政令第383号による改正前のもの)8条の2の船籍簿は,刑法157条1項にいう「権利若しくは義務に関する公正証書の原本」に当たる。 2 小型船舶の船籍及び総トン数の測度に関する政令(平成13年政令第383号による改正前のもの)4条1項に基づく船籍票の内容虚偽の書…