第一審判決の確定した事実は「…(判決参照)…」というのである。しかし、本件記録に徴すれば、Aが、被告人のBに対する前記第五六一九一号公正証書による貸金債権六五〇〇〇円の譲渡契約を被告人との間に締結したのは、Aにおいて、右貸金債権が未だ消滅せず尚存在するものと信じたが故か、或は被告人において右公正証書の執行正本を入手し得る状態にあつたので、形式上は右貸金債権の担保物となつていた前記土地建物を連帯債務者Cの承諾の下に、AのBに対して有する求償債権及びAが被告人から譲受けた別口二〇〇〇〇円の債権手形による)の確保のため振り向けて利用するためになされたものかは疑問の存するところであつて、第一審判決が、被告人は前記公正証書による貸金債権は既に消滅しているのにも拘らず、尚存在するものの如く装い、Aをしてその旨誤信せしめて判示約束手形(騙取額は六五〇〇〇円の範囲内)を騙取したものと認定したことは、重大な事実の誤認を疑うに足る顕著な事由が存するものと認めるので、右第一審判決並びにこれを是認した原判決を確定させることは著しく正義に反するものと認める。
一 刑訴法第四一一条三号にあたる一事例 二 ―詐欺罪における事実誤認―
刑法246条,刑訴法411条3号
判旨
詐欺罪における欺罔行為と錯誤、及び交付行為の間の因果関係を認定するにあたっては、被害者が財物を交付した真の主観的意図を慎重に吟味すべきであり、債権が既に消滅していることを隠して債権譲渡を行ったとしても、被害者の目的が債権自体の取得ではなく別の債権の確保等にある場合は、詐欺罪の成立が否定され得る。
問題の所在(論点)
被告人が消滅した債権を存在するように装って債権譲渡契約を締結し、手形を取得した場合において、被害者が「債権の存在」を信じたことが手形交付の直接的な原因といえるか(欺罔・錯誤と処分行為の因果関係)。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)が成立するためには、欺罔行為によって相手方が錯誤に陥り、その錯誤に基づいて財物交付行為がなされるという因果関係が必要である。形式的に虚偽の事実を告知したとしても、相手方がその事実を真実と誤信したことによって財物を交付したといえない場合(例えば、別の目的や形式的な便宜のために交付した場合)には、詐欺罪の成立を認めることはできない。
事件番号: 昭和40(あ)2193 / 裁判年月日: 昭和41年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産移転登記に必要な関係書類を欺罔行為によって交付させた場合、当該書類の交付自体が財産的価値を有する交付行為にあたり、詐欺罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、Aから山林(甲)を買い受ける際、登記簿上A名義となっているが実際には他者の所有である山林(乙・丙)を自己の所有名義にして売却しよう…
重要事実
被告人は、債務者Bに対する貸金債権(6万5000円)が連帯保証人からの弁済により既に消滅していたにもかかわらず、公証人に対し右債権が尚存在するかの如く装い、債権譲渡契約の公正証書を作成した。これを用いて、Bの別口債務の連帯保証人であったAに対し、右債権を譲渡する旨申し向け、Aから額面8万1000円の約束手形を交付させた。第一審及び原審は、Aが債権の存在を誤信したとして詐欺罪の成立を認めた。
あてはめ
本件記録によれば、Aが債権譲渡を受けた動機には疑問の余地がある。Aは単に債権が存続していると誤信したのではなく、被告人が執行正本を入手可能な状態にあったことを利用し、形式上担保物件(土地建物)を自己の求償権や別口債権の確保のために利用する目的で契約を締結した可能性がある。もし、Aが債権の消滅を知りつつ、または債権の存否にかかわらず、担保物件の形式的な利用等の別目的で手形を交付したのであれば、虚偽の告知と手形交付との間に詐欺罪としての因果関係は認められない。この点について十分な審理をせず、単に債権の存否を誤信したと断定した原判決には重大な事実誤認の疑いがある。
結論
被告人の欺罔行為と被害者の処分行為との間の因果関係について審理不尽の違法がある。原判決及び第一審判決を破棄し、本件を福岡地方裁判所に差し戻す。
実務上の射程
被害者の主観的な交付動機を詳細に検討すべきことを示した事例である。答案作成上は、欺罔行為と錯誤の因果関係において「もし真実を知っていれば交付しなかったといえるか」という仮定的判断を行う際、被害者の抱いていた他の目的や経済的合理性を慎重に検討する際の視点として活用できる。
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…
事件番号: 昭和31(あ)2416 / 裁判年月日: 昭和35年1月11日 / 結論: 棄却
たとい不動産の真実の所有者であつても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因としかつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原…
事件番号: 昭和41(あ)2069 / 裁判年月日: 昭和46年2月23日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の所有権移転につき、金融を得やすくする等の目的で、真実権利を移転する意思をもってなされた登記申請は、仮に売買を原因とする形式を採ったとしても公正証書原本不実記載罪における「不実の記録」には当たらない。権利移転の実体的な効果意思が認められる限り、虚偽の意思表示による不実の記載とはいえない。 第…
事件番号: 平成16(あ)761 / 裁判年月日: 平成16年11月30日 / 結論: 棄却
1 郵便送達報告書の受領者の押印又は署名欄に他人である受送達者本人の氏名を冒書する行為は,同人名義の受領書を偽造したものとして,有印私文書偽造罪を構成する。 2 支払督促の債務者を装い郵便配達員を欺いて支払督促正本を受領することにより,送達が適式にされたものとして支払督促の効力を生じさせ,債務者から督促異議申立ての機会…