判旨
不動産移転登記に必要な関係書類を欺罔行為によって交付させた場合、当該書類の交付自体が財産的価値を有する交付行為にあたり、詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
他人の不動産を不法に自己名義にする目的で、代理人を欺いて不動産売渡書の中に本来対象外の不動産を含めて記載させ、当該書類の交付を受けた行為につき、詐欺罪が成立するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)の成立には、欺罔行為により相手方を錯誤に陥らせ、その錯誤に基づく処分行為によって財産上の利益や財物が移転することが必要である。不動産の権利移転に直結する売渡書等の重要書類を交付させる行為は、それ自体が不動産の処分を可能にする財産的価値を有するものとして、詐欺罪における「交付」に該当する。
重要事実
被告人は、Aから山林(甲)を買い受ける際、登記簿上A名義となっているが実際には他者の所有である山林(乙・丙)を自己の所有名義にして売却しようと企てた。被告人はAの代理人Dに対し、甲の登記をする際に乙・丙の登記も真実の所有者に移転してやると嘘を言い、Dを誤信させた。Dは、Aから被告人の長男宛の「甲」の売渡書に「乙・丙」も記入して被告人に交付した。被告人はこれを利用して乙・丙の所有権移転登記を完了させた。
あてはめ
被告人は、真実の所有者に登記を戻す意思がないにもかかわらず、その便宜を図るかのような虚偽の事実をDに申し向けており、これは欺罔行為にあたる。Dはこれを信じて、本来記載すべきでない乙・丙の山林を含めた売渡書を作成・交付しており、被告人の欺罔に基づく処分行為が認められる。この売渡書は登記手続に直接利用され、実際に所有権移転登記を了させていることから、不動産の処分権限を実質的に移転させる財産的価値を有する書類の交付があったといえる。
結論
被告人の行為には詐欺罪が成立する。
事件番号: 昭和27(あ)6836 / 裁判年月日: 昭和31年3月9日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決の確定した事実は「…(判決参照)…」というのである。しかし、本件記録に徴すれば、Aが、被告人のBに対する前記第五六一九一号公正証書による貸金債権六五〇〇〇円の譲渡契約を被告人との間に締結したのは、Aにおいて、右貸金債権が未だ消滅せず尚存在するものと信じたが故か、或は被告人において右公正証書の執行正本を入手し得…
実務上の射程
本判決は、不動産そのものの占有移転がなくても、登記に必要な売渡書等の重要書類を交付させた段階で詐欺罪の成立を認めるものである。不動産詐欺において「財物」の交付をどの時点で捉えるかという実務上の判断基準を示しており、権利移転の蓋然性が高い書類の取得を処罰対象とする際に有用である。
事件番号: 昭和42(あ)786 / 裁判年月日: 昭和42年12月21日 / 結論: 棄却
土地所有者の氏名を冒用して、簡易裁判所に起訴前の和解の申立をし、被告人に右土地の所有権移転登記手続をする旨の内容虚偽の和解調書を作成させたうえ、その正本を登記官吏に登記原因を証する書面として提出し、登記簿にその旨不実の記載をさせても、右土地に関する詐欺罪は成立しないものと解すべきである。
事件番号: 昭和41(あ)2069 / 裁判年月日: 昭和46年2月23日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の所有権移転につき、金融を得やすくする等の目的で、真実権利を移転する意思をもってなされた登記申請は、仮に売買を原因とする形式を採ったとしても公正証書原本不実記載罪における「不実の記録」には当たらない。権利移転の実体的な効果意思が認められる限り、虚偽の意思表示による不実の記載とはいえない。 第…
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…
事件番号: 昭和31(あ)2416 / 裁判年月日: 昭和35年1月11日 / 結論: 棄却
たとい不動産の真実の所有者であつても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因としかつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原…