判旨
公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。
問題の所在(論点)
「見せ金」による会社設立登記の申請が、公正証書原本不実記載罪における「不実の申立て」に該当するか。特に、設立登記自体の有効性と同罪の成否の関係が問題となる。
規範
公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)の成否については、登記の基礎となる設立手続の有効性(設立無効原因の存否)を一般的に論ずるのではなく、申請された個々の登記事項(発行済株式の総数、払込完了の事実、役員の選任等)について、客観的真実に反する不実の記載がなされたか否かを個別に判断すべきである。
重要事実
被告人らは、C工業株式会社の設立登記に際し、いわゆる「見せ金」を利用して株式の払込を仮装した。実際には発起人の大部分および一般募集株式の引受けについて実体を備えておらず、株金保管証明書も虚偽であった。さらに、創立総会は現実には開催されておらず、取締役等の会社機関の選任手続も行われていなかったが、これらが適法に完了したとして設立登記を申請し、完了させた。
あてはめ
本件では、株式の引受けという実体がなく、払込完了の事実は仮装されたものであった。また、創立総会が開かれず役員の選任も行われていない。これらの事実関係の下では、登記された事項(株式数、払込、役員の氏名等)はいずれも真実に反する。したがって、会社設立が無効であるか否かという抽象的な議論を待つまでもなく、個々の登記事項すべてについて客観的事実に反する「不実」の記載がなされたといえる。
結論
被告人らの行為は、公正証書原本不実記載罪を構成する。会社設立が無効であることを理由に同罪の成立を認めた原判決の論理は適切を欠くが、結論において正当である。
事件番号: 昭和39(あ)1854 / 裁判年月日: 昭和40年6月24日 / 結論: 棄却
いわゆる見せ金により、株式の払込を仮装したのみで、なんら設立手続が行なわれていないため、会社が不存在であるにかかわらずその設立の登記を申請し、登記官をして商業登記簿の原本にその旨記載させたときは、登記事項のすべてに関し公正証書原本不実記載罪合が成立する。
実務上の射程
登記の公信力を維持する観点から、設立手続の瑕疵が登記事項の真実性を否定する程度に至っているかを重視する。実務上は、預け合いや見せ金による設立において、単に資本充実の原則に反するというだけでなく、払込や役員選任といった具体的記載事項が虚偽であることを摘示して立証する際の根拠となる。
事件番号: 昭和39(あ)472 / 裁判年月日: 昭和41年10月11日 / 結論: 破棄差戻
会社の設立又は増資に際し、株金の払込が仮装のものであるにかかわらずこれを秘し、その株式引受人による払込が完了し、設立又は増資をした旨の登記申請をなし、商業登記簿の原本にその記載をなさしめたときは、商法第一八八条第二項第五号「発行済株式ノ総数」に関し、公正証書原本不実記載罪が成立する。
事件番号: 昭和62(あ)1283 / 裁判年月日: 平成3年2月28日 / 結論: 棄却
増資の際、株式の払込みは、当初から真実の払込みとして会社資金を確保させる意図はなく、会社と名目的な引受人との合意に基づき、引受人が会社自身又は他から一時借り入れた金員をもって単に払込みの外形を整えた後、会社において直ちに右払込金を払い戻して、借入金の返済等に充て、あるいは払込金を会社名義の定期預金とした上これに質権を設…
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…
事件番号: 昭和28(あ)1870 / 裁判年月日: 昭和33年3月27日 / 結論: 棄却
商法(昭和一三年法律第七二号による改正後のもの)第四八九条(会社財産を危くする罪)第一号の罪と刑法第一五七条の罪(公正証書原本不実記載罪)とは、共に成立し、両者は刑法第五四条第一項前段の関係に立ちうる。