増資の際、株式の払込みは、当初から真実の払込みとして会社資金を確保させる意図はなく、会社と名目的な引受人との合意に基づき、引受人が会社自身又は他から一時借り入れた金員をもって単に払込みの外形を整えた後、会社において直ちに右払込金を払い戻して、借入金の返済等に充て、あるいは払込金を会社名義の定期預金とした上これに質権を設定したものであり、会社が取得した引受人に対する債権及び右定期預金債権が会社の実質的な資産とは認められない本件事案(判文参照)の下においては、右払込みは、仮装のものであって、商業登記簿の原本に増資の記載をさせた行為は、公正証書原本不実記載罪に当たる。
新株の払込みを仮装のものとして公正証書原本不実記載罪の成立が認められた事例
刑法157条1項
判旨
新株発行において、当初から会社資金を確保する意図がなく、払込みの外形を整えた直後に払込金を払い戻して借入金の返済等に充てる行為は、株式の払込みとしての効力を有しない。このような仮装の払込みに基づく登記申請は、公正証書原本不実記載罪を構成する。
問題の所在(論点)
新株発行の際、払込金の外形を整えつつ直後にこれを払い戻す行為(いわゆる「見せ金」や「預合い」に準ずる仮装の払込み)が、有効な株式の払込みと認められるか。また、これに基づき増資の登記をした場合に公正証書原本不実記載罪が成立するか。
規範
株式の払込みが有効か否かは、払込みが当初から真実の株式の払込みとして会社資金を確保させる意図に基づくものか、あるいは単に払込みの外形を整えた後に直ちに払い戻すことを前提とした名目的なものかにより判断する。具体的には、①会社の主導性の有無、②会社資金を確保させる意図の存否、③払込金の返還時期・使途、④会社が当該資金を実質的な資産として利用可能な状態にあるか否か、といった要素を総合考慮して決する。
重要事実
事件番号: 昭和38(あ)1593 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、…
被告人らは、株式会社Aの増資に際し、引受人が銀行等から借り入れた資金を申込証拠金として入金させ、保管証明書を取得した。しかし、これらは全てAの主導で行われ、払込期日の直後には、払込金がAから引き出されて引受人の借入金債務の代位弁済やA自身の手形決済に充てられた。また、一部の払込金はA名義の定期預金となったが、引受人の借入金債務のために質権が設定され、引受人に弁済能力がなかったため、Aが自由に利用できない状態にあった。
あてはめ
本件各払込みは、Aの主導で行われており、当初から会社資金を確保させる意図は認められない(要素②)。払込金は直後に引き出され、引受人の借入金弁済等に充てられており(要素③)、Aが取得した債権は実質的に名目的なものに過ぎない。定期預金についても、質権設定により会社が自由に使用できない状態にあり、実質的な資産とは評価できない(要素④)。したがって、いずれの払込みも、単に払込みの外形を整えたに過ぎない仮装のものであり、株式の払込みとしての効力を有しない。
結論
本件各払込みは無効であり、増資の実態がないにもかかわらず資本金増加の登記をした行為について、公正証書原本不実記載罪の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
会社法上の「見せ金」による払込みの効力を否定した重要判例である。刑法上の不実記載の成否のみならず、会社法における発行無効原因や取締役の責任を論ずる際の「払込みの有効性」の判断枠組みとして活用できる。特に、払戻金が会社債権に転化したとしても、それが実質的に回収不能であれば「実質的な資産」とはいえないとする判断手法が実務上重要である。
事件番号: 昭和45(あ)2042 / 裁判年月日: 昭和47年1月18日 / 結論: 棄却
増資に際し、株金の払込がいわゆる見せ金によってされた仮装のものであるにかかわらず、その株式引受人による払込が完了して、増資をした旨の登記申請をし、商業登記簿の原本にその記載をさせたときは、昭和四一年法律第八三号による改正前の商法一八八条二項五号の「発行済株式ノ総数」に関し、公正証書原本不実記載罪が成立する。
事件番号: 昭和39(あ)472 / 裁判年月日: 昭和41年10月11日 / 結論: 破棄差戻
会社の設立又は増資に際し、株金の払込が仮装のものであるにかかわらずこれを秘し、その株式引受人による払込が完了し、設立又は増資をした旨の登記申請をなし、商業登記簿の原本にその記載をなさしめたときは、商法第一八八条第二項第五号「発行済株式ノ総数」に関し、公正証書原本不実記載罪が成立する。
事件番号: 昭和30(あ)1934 / 裁判年月日: 昭和35年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧商法における「預合」とは、発起人等が株金払込を仮装するために払込取扱機関の役職員と通謀してなす偽装行為をいい、一方で「見せ金」は役職員との通謀を伴わない点で区別される。 第1 事案の概要:A株式会社の発起人である被告人両名は、真実の株式引受人からの払込がないにもかかわらず、設立登記を完了させる目…
事件番号: 昭和39(あ)1854 / 裁判年月日: 昭和40年6月24日 / 結論: 棄却
いわゆる見せ金により、株式の払込を仮装したのみで、なんら設立手続が行なわれていないため、会社が不存在であるにかかわらずその設立の登記を申請し、登記官をして商業登記簿の原本にその旨記載させたときは、登記事項のすべてに関し公正証書原本不実記載罪合が成立する。