判旨
旧商法における「預合」とは、発起人等が株金払込を仮装するために払込取扱機関の役職員と通謀してなす偽装行為をいい、一方で「見せ金」は役職員との通謀を伴わない点で区別される。
問題の所在(論点)
株金払込を仮装する目的で一時的に借入金を払い込み、登記後に直ちに払い戻す行為(いわゆる見せ金)が、旧商法491条の「預合」の罪に該当するか。特に、払込取扱機関との通謀の要否が問題となる。
規範
株金払込の仮装のうち、旧商法491条(現行会社法963条1項等に関連)に規定される「預合」の罪が成立するためには、発起人または取締役が株金払込を仮装する目的を有しているだけでなく、払込を取り扱う金融機関の役職員と通謀して当該偽装行為を行うことを要する。一方、払込取扱機関との通謀がない場合は「見せ金」として「預合」とは区別される。
重要事実
A株式会社の発起人である被告人両名は、真実の株式引受人からの払込がないにもかかわらず、設立登記を完了させる目的で他人から資金を借用した。これを形式上株金の払込としてB銀行C支店に払い込み、払込金保管証明書の交付を受けて設立登記を完了させた。その後直ちに当該金員を払い戻して借入先に返済したが、この過程において払込取扱機関である銀行役職員との間で通謀があった事実は認められなかった。
あてはめ
本件において、被告人らは他人から借りた資金を形式上払い込み、登記完了後に即座に払い戻して返済しており、株金払込を仮装する目的があったことは明らかである。しかし、刑罰法規である「預合」の定義を検討すると、それは金融機関側との通謀を前提とする概念である。本件記録上、払込取扱機関であるB銀行側の役職員と被告人らとの間に通謀があった事実は認められない。したがって、本件行為は「預合」の構成要件を充足しない。
結論
被告人らの行為は株金払込を仮装するものではあるが、払込取扱機関との通謀が認められない以上、預合の罪は成立せず、第一審の無罪判決を維持した原判決は正当である。
事件番号: 昭和38(あ)1593 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、…
実務上の射程
会社法上の払込仮装責任(会社法52条の2、102条の2、213条の2等)を論ずる際、「見せ金」と「預合」の概念的区別を明確にする基礎となる。特に刑事責任や払込の有効性を判断するにあたり、払込取扱機関の関与(通謀)の有無が法的な評価を分ける重要なメルクマールとなることを示している。
事件番号: 昭和39(あ)472 / 裁判年月日: 昭和41年10月11日 / 結論: 破棄差戻
会社の設立又は増資に際し、株金の払込が仮装のものであるにかかわらずこれを秘し、その株式引受人による払込が完了し、設立又は増資をした旨の登記申請をなし、商業登記簿の原本にその記載をなさしめたときは、商法第一八八条第二項第五号「発行済株式ノ総数」に関し、公正証書原本不実記載罪が成立する。
事件番号: 昭和62(あ)1283 / 裁判年月日: 平成3年2月28日 / 結論: 棄却
増資の際、株式の払込みは、当初から真実の払込みとして会社資金を確保させる意図はなく、会社と名目的な引受人との合意に基づき、引受人が会社自身又は他から一時借り入れた金員をもって単に払込みの外形を整えた後、会社において直ちに右払込金を払い戻して、借入金の返済等に充て、あるいは払込金を会社名義の定期預金とした上これに質権を設…
事件番号: 昭和39(あ)1854 / 裁判年月日: 昭和40年6月24日 / 結論: 棄却
いわゆる見せ金により、株式の払込を仮装したのみで、なんら設立手続が行なわれていないため、会社が不存在であるにかかわらずその設立の登記を申請し、登記官をして商業登記簿の原本にその旨記載させたときは、登記事項のすべてに関し公正証書原本不実記載罪合が成立する。
事件番号: 昭和27(あ)6836 / 裁判年月日: 昭和31年3月9日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決の確定した事実は「…(判決参照)…」というのである。しかし、本件記録に徴すれば、Aが、被告人のBに対する前記第五六一九一号公正証書による貸金債権六五〇〇〇円の譲渡契約を被告人との間に締結したのは、Aにおいて、右貸金債権が未だ消滅せず尚存在するものと信じたが故か、或は被告人において右公正証書の執行正本を入手し得…