会社の設立又は増資に際し、株金の払込が仮装のものであるにかかわらずこれを秘し、その株式引受人による払込が完了し、設立又は増資をした旨の登記申請をなし、商業登記簿の原本にその記載をなさしめたときは、商法第一八八条第二項第五号「発行済株式ノ総数」に関し、公正証書原本不実記載罪が成立する。
株金の払込が仮装のものであるにかかわらずこれを秘し設立又は増資の登記をした場合と公正証書原本不実記載罪。
刑法157条1,商法188条,商法67条,商法57条
判旨
いわゆる「見せ金」等により株金の払込を仮装した場合、商業登記簿の「発行済株式の総数」等の記載は真実に反するものとして、公正証書原本不実記載罪が成立する。商法上の登記事項から「払込済株金額」が削除された後も、発行済株式数は現実の払込が完了した株式を指すと解すべきである。
問題の所在(論点)
商法改正により「各株につき払い込みたる株金額」が登記事項から削除された後において、株金の払込を仮装して会社設立・増資の登記を行う行為は、公正証書原本不実記載罪における「不実の記載」をさせたといえるか。具体的には、「発行済株式の総数」等の記載が不実にあたるかが問題となる。
規範
公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)における「不実の記載」とは、権利義務関係の存否等、記載事項につき真実に反する記載をすることをいう。株式会社の設立・増資における「発行済株式の総数」等の登記事項は、資本の充実を諮る商法の趣旨に鑑み、現実の払込がなされた株式を指称するものと解される。したがって、払込を仮装してなされた登記は、客観的真実に反する不実の記載にあたる。
重要事実
被告人らは、会社の発起人または取締役と共謀し、会社設立および増資に際して株金の払込を仮装した。しかし、これらを秘したまま、株式引受人による払込が完了し設立または増資がなされた旨の登記申請を行い、商業登記簿に発行済株式総数や資本の額等を記載させた。原審は、商法改正により「払込済株金額」が登記事項から削除されたことを理由に無罪としたが、検察官が上告した。
事件番号: 昭和38(あ)1593 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、…
あてはめ
株式会社制度は経済取引において重要であり、商法は資本充実のために現実の払込を確保する規定を置いている。改正後の商法(当時)における「発行済株式の総数」は、かつての「払込済株金額」と同様、現実の払込がなされたものを公示し、会社の現実の資本を公示する役割を担っている。本件では、払込が仮装されたにすぎないにもかかわらず、あたかも有効な払込が完了したかのように装って登記を完了させており、これは商業登記簿が本来公示すべき客観的事実に反する記載をさせたといえる。
結論
被告人らの行為は、商法上の「発行済株式の総数」等に関し、公正証書原本不実記載罪および同公使罪を構成する。したがって、無罪とした原判決には法令解釈の誤りがある。
実務上の射程
本判決は、見せ金や預け合いによる仮装払込が、会社法(旧商法)上の有効性を有するか否かにかかわらず、刑法上の不実記載罪を構成することを明確にしたものである。現在でも、商業登記の正確性を保護法益とする文脈で、仮装払込による登記申請の刑事責任を論じる際のリーディングケースとして機能する。
事件番号: 昭和45(あ)2042 / 裁判年月日: 昭和47年1月18日 / 結論: 棄却
増資に際し、株金の払込がいわゆる見せ金によってされた仮装のものであるにかかわらず、その株式引受人による払込が完了して、増資をした旨の登記申請をし、商業登記簿の原本にその記載をさせたときは、昭和四一年法律第八三号による改正前の商法一八八条二項五号の「発行済株式ノ総数」に関し、公正証書原本不実記載罪が成立する。
事件番号: 昭和62(あ)1283 / 裁判年月日: 平成3年2月28日 / 結論: 棄却
増資の際、株式の払込みは、当初から真実の払込みとして会社資金を確保させる意図はなく、会社と名目的な引受人との合意に基づき、引受人が会社自身又は他から一時借り入れた金員をもって単に払込みの外形を整えた後、会社において直ちに右払込金を払い戻して、借入金の返済等に充て、あるいは払込金を会社名義の定期預金とした上これに質権を設…
事件番号: 昭和41(あ)961 / 裁判年月日: 昭和42年12月14日 / 結論: 破棄差戻
増資にあたり、株式引受人の会社に対する債権が真実に存在し、かつこれを弁済する資力が会社にある場合には、会社が株式払込取扱銀行から金融を受けて株式引受人に対する債務を弁済し株式引受人が右弁済金を引受株式の払込金に充当するという払込方法がとられたとしても、直ちに商法第四九一条の預合罪および応預合罪が成立するとはいえない。
事件番号: 昭和30(あ)1934 / 裁判年月日: 昭和35年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧商法における「預合」とは、発起人等が株金払込を仮装するために払込取扱機関の役職員と通謀してなす偽装行為をいい、一方で「見せ金」は役職員との通謀を伴わない点で区別される。 第1 事案の概要:A株式会社の発起人である被告人両名は、真実の株式引受人からの払込がないにもかかわらず、設立登記を完了させる目…