増資にあたり、株式引受人の会社に対する債権が真実に存在し、かつこれを弁済する資力が会社にある場合には、会社が株式払込取扱銀行から金融を受けて株式引受人に対する債務を弁済し株式引受人が右弁済金を引受株式の払込金に充当するという払込方法がとられたとしても、直ちに商法第四九一条の預合罪および応預合罪が成立するとはいえない。
預合罪および応預合罪の成否
商法491条
判旨
株式引受人の会社に対する債権が真実に存在し、かつ会社に弁済資力がある場合、会社が銀行から借入れた資金を当該債権の弁済に充て、引受人がその弁済金を株金払込に充当する行為は、預合罪(会社法965条等)に該当しない。
問題の所在(論点)
会社が銀行からの借入金を株式引受人である債権者への債務弁済に充て、引受人がその弁済金を株金払込に充当した場合に、旧商法491条(現会社法965条)の預合罪・応預合罪が成立するか。
規範
預合(払込の仮装)に該当するか否かは、帳簿上の形式的操作にとらわれず、実質的に資本充実の原則に反するかによって判断すべきである。具体的には、株式引受人の会社に対する債権が真実に存在し、かつ会社にこれを弁済する資力がある場合には、会社からの弁済金を払込金に充当しても資本充実の原則に反せず、預合罪は成立しない。
重要事実
会社Aは増資に際し、新株引受申込額が不足したため、取締役Dと銀行支店長Eが通謀し、銀行から会社及び代表者Fに計2270万円を貸し付けた。この貸付金を別段預金口座に振り替え、払込金保管証明書を得ることで払込を仮装したとして預合罪で起訴された。これに対し弁護人は、借入金のうち770万円は従業員やFの会社に対する既存債権(預り金等)の弁済に充てられ、彼らはその弁済金をもって真実払込の意思で充当したものであるから仮装ではないと主張した。
事件番号: 昭和39(あ)472 / 裁判年月日: 昭和41年10月11日 / 結論: 破棄差戻
会社の設立又は増資に際し、株金の払込が仮装のものであるにかかわらずこれを秘し、その株式引受人による払込が完了し、設立又は増資をした旨の登記申請をなし、商業登記簿の原本にその記載をなさしめたときは、商法第一八八条第二項第五号「発行済株式ノ総数」に関し、公正証書原本不実記載罪が成立する。
あてはめ
原審は、わずか二日間で操作前と同じ資金内容に戻るような態様は資本充実を無視する形式的な操作であるとして、一律に預合罪の成立を認めた。しかし、もし従業員らやFが会社に対して真実債権を有しており、かつ会社にその弁済資力があったならば、会社はどのみち弁済義務を負っていたのであるから、その弁済金を払込に充てることは実質的な出資を伴うものといえる。したがって、これらの事実関係を精査せずに直ちに払込の仮装と断定した原審の判断は、法令の解釈を誤り、審理を尽くさなかったものといえる。
結論
被告人両名に預合罪・応預合罪が成立するとした原判決を破棄し、従業員らの債権の存否及び会社の弁済資力について更に審理を尽くさせるため、本件を原裁判所に差し戻す。
実務上の射程
本判決は、預合罪の成否において、形式的な資金の動きだけでなく「真実の債権の有無」と「会社の弁済資力」という実質的な要素を重視する。司法試験の答案上は、払込の仮装が問題となる場面(会社法208条、209条、965条関連)において、相殺禁止の潜脱(会社法208条2項)との関係を整理しつつ、実質的に会社に資金が流入したといえるかの判断基準として活用できる。
事件番号: 昭和62(あ)1283 / 裁判年月日: 平成3年2月28日 / 結論: 棄却
増資の際、株式の払込みは、当初から真実の払込みとして会社資金を確保させる意図はなく、会社と名目的な引受人との合意に基づき、引受人が会社自身又は他から一時借り入れた金員をもって単に払込みの外形を整えた後、会社において直ちに右払込金を払い戻して、借入金の返済等に充て、あるいは払込金を会社名義の定期預金とした上これに質権を設…
事件番号: 昭和40(あ)2308 / 裁判年月日: 昭和41年4月19日 / 結論: 棄却
商法第四九一条前段の預合とは、同法第四八六条第一項に掲げる者が株金の払込を仮装するために、株金払込を取り扱う機関の役職員らと通謀してなす仮装行為をいうものと解すべきであり(昭和三四年(あ)第九〇三号同三六年三月二八日第三小法廷決定刑集一五巻三号五九〇頁)、同条前段の預合罪の構成要件が所論のように不明確であるということは…
事件番号: 昭和30(あ)1934 / 裁判年月日: 昭和35年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧商法における「預合」とは、発起人等が株金払込を仮装するために払込取扱機関の役職員と通謀してなす偽装行為をいい、一方で「見せ金」は役職員との通謀を伴わない点で区別される。 第1 事案の概要:A株式会社の発起人である被告人両名は、真実の株式引受人からの払込がないにもかかわらず、設立登記を完了させる目…
事件番号: 昭和39(あ)502 / 裁判年月日: 昭和40年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】非身分者が真正身分犯の共同正犯として責任を負うためには、身分者が有する任務違背の認識とほぼ同程度の認識を有していることが必要である。 第1 事案の概要:商法上の特別背任罪(現行会社法960条等に相当)に問われた事件において、任務を有する「身分者」の行為に対し、任務を有しない「非身分者」が共犯として…