判旨
非身分者が真正身分犯の共同正犯として責任を負うためには、身分者が有する任務違背の認識とほぼ同程度の認識を有していることが必要である。
問題の所在(論点)
刑法65条1項が適用される真正身分犯(本件では旧商法の特別背任罪)の共同正犯において、非身分者に必要とされる「故意(認識)」の程度が問題となる。
規範
身分のない者が、身分を有する者の任務違背行為に加功し、共同正犯としての責任を負うためには、身分者が当該罪の成立に必要とされる任務違背の認識を有しているのと同様に、非身分者側においてもそれと「略同程度(ほぼ同程度)」の任務違背の認識を有していることを要する。
重要事実
商法上の特別背任罪(現行会社法960条等に相当)に問われた事件において、任務を有する「身分者」の行為に対し、任務を有しない「非身分者」が共犯として関与した。原審は、非身分者に共同正犯が成立するためには、身分者が抱いた任務違背の認識とほぼ同程度の認識が必要であると判断したため、検察側がこれを判例違反として上告した。
あてはめ
最高裁は、原審の判断を支持し、非身分者が共同正犯の責めを負うためには、身分者と同程度の任務違背の認識が必要であると解した。これは、身分犯における非身分者の可罰性の根拠が、身分者の法益侵害行為に共同して加担した点にあることに鑑みれば、主観面においても身分者に求められる認識と同等の実質的な認識を非身分者に要求することが妥当であるとの趣旨に基づくものといえる。
結論
非身分者に、身分者の任務違背の認識とほぼ同程度の認識が認められる場合に限り、共同正犯が成立する。本件上告は棄却された。
実務上の射程
事件番号: 昭和41(あ)961 / 裁判年月日: 昭和42年12月14日 / 結論: 破棄差戻
増資にあたり、株式引受人の会社に対する債権が真実に存在し、かつこれを弁済する資力が会社にある場合には、会社が株式払込取扱銀行から金融を受けて株式引受人に対する債務を弁済し株式引受人が右弁済金を引受株式の払込金に充当するという払込方法がとられたとしても、直ちに商法第四九一条の預合罪および応預合罪が成立するとはいえない。
真正身分犯(刑法65条1項)の共犯における主観的要件(故意)の具体的内容を画する重要な基準である。答案上では、身分なき共犯の成立要件を論じる際、65条1項により共犯が成立する前提として、非身分者側にも「身分者が有する認識と同程度の認識」が必要であることを示す規範として活用する。
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…
事件番号: 昭和28(あ)1870 / 裁判年月日: 昭和33年3月27日 / 結論: 棄却
商法(昭和一三年法律第七二号による改正後のもの)第四八九条(会社財産を危くする罪)第一号の罪と刑法第一五七条の罪(公正証書原本不実記載罪)とは、共に成立し、両者は刑法第五四条第一項前段の関係に立ちうる。
事件番号: 昭和27(あ)6836 / 裁判年月日: 昭和31年3月9日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決の確定した事実は「…(判決参照)…」というのである。しかし、本件記録に徴すれば、Aが、被告人のBに対する前記第五六一九一号公正証書による貸金債権六五〇〇〇円の譲渡契約を被告人との間に締結したのは、Aにおいて、右貸金債権が未だ消滅せず尚存在するものと信じたが故か、或は被告人において右公正証書の執行正本を入手し得…