商法(昭和一三年法律第七二号による改正後のもの)第四八九条(会社財産を危くする罪)第一号の罪と刑法第一五七条の罪(公正証書原本不実記載罪)とは、共に成立し、両者は刑法第五四条第一項前段の関係に立ちうる。
商法(昭和一三年法律第七二号による改正後のもの)第四八九条(会社財産を危くする罪)第一号の罪と刑法第一五七条の罪(公正証書原本不実記載罪)とは刑法第五四条第一項前段の関係に立ちうるか
刑法157条,刑法54条1項,商法489条1号
判旨
商法上の特別背任罪等の罪が成立する場合であっても、それとは別に刑法157条の公正証書原本不実記載罪が成立することを妨げない。
問題の所在(論点)
商法上の罪(現行会社法の特別背任罪等に相当)が成立する行為について、重ねて刑法157条の公正証書原本不実記載罪が成立するか。
規範
商法(現行会社法)の罰則規定と刑法の規定は、法改正により排他的な関係にあるとの明文(旧商法261条2項)が廃止された以上、一個の行為が両罪の構成要件に該当する場合には、併合罪または観念的競合として両罪が成立し得る。
重要事実
被告人が商法489条(当時)の罪に該当する行為を行った際、同時に公務員に対し虚偽の申立てを行って公正証書原本に不実の記載をさせたとして、刑法157条1項の罪に問われた事案。弁護人は、商法に罰則がある場合は刑法の適用を排除すべきとする旧商法下の判例を引用し、刑法違反の成立を争った。
事件番号: 昭和38(あ)1593 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、…
あてはめ
昭和13年の法律改正により、商法上の罪がある場合に刑法の適用を排除する旨の規定(旧商法261条2項)が削除された。したがって、改正後の行為については、商法上の罪が成立するからといって当然に刑法の適用が排除される理由はない。本件行為は商法489条の要件を満たすと同時に、公正証書原本に不実の記載をさせるという刑法157条の要件も充足している。
結論
商法489条(当時)の罪が成立するとともに、他面において刑法157条の罪が成立することを妨げない。
実務上の射程
特別法(会社法等)の罰則と一般法(刑法)の罪数関係に関する基本的判断。会社法上の犯罪(特別背任や虚偽告知等)に伴い不実の登記がなされた場合、会社法違反のみならず公正証書原本不実記載罪も成立し得ることを示す。
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…
事件番号: 昭和28(あ)2937 / 裁判年月日: 昭和29年1月21日 / 結論: 棄却
法人の代表者がその機関たる地位において法人のために犯罪行為をした場合に、法人自体が処罰の対象となり刑事責任を負うかどうかは格別、行為者たる法人の代表者個人がその刑事責任を負担することは、わが刑法上当然である。
事件番号: 昭和31(あ)2416 / 裁判年月日: 昭和35年1月11日 / 結論: 棄却
たとい不動産の真実の所有者であつても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因としかつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原…
事件番号: 昭和52(あ)935 / 裁判年月日: 昭和52年9月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮装による所有権移転登記を公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)により処罰することは、真正なる公正証書の内容に対する公の信用を保護するためであり、憲法29条の財産権保障には違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、実体上の所有権移転の合意がないにもかかわらず、通謀等により仮装の所有権移転登記を…