法人の代表者がその機関たる地位において法人のために犯罪行為をした場合に、法人自体が処罰の対象となり刑事責任を負うかどうかは格別、行為者たる法人の代表者個人がその刑事責任を負担することは、わが刑法上当然である。
法人のために犯罪行為をした法人の代表者の刑事責任
旧商法357条,刑法157条,刑法158条
判旨
法人の代表者がその機関たる地位において法人のために犯罪行為をした場合であっても、行為者たる代表者個人がその刑事責任を負うことは我が国の刑法上当然である。
問題の所在(論点)
法人の代表者が、法人の機関として、かつ法人のために犯罪行為を行った場合に、その代表者個人に対して刑事責任を問うことができるか。
規範
法人の機関としての地位に基づき、法人の業務として犯罪行為が行われた場合であっても、法人自体の処罰の有無とは無関係に、当該行為を現実行った代表者個人は刑法上の実行行為者として刑事責任を免れない。
重要事実
被告人は法人の代表者であり、その機関たる地位において、法人のために犯罪行為に該当する行為を行った。弁護側は、法人のために行われた行為である以上、代表者個人は刑事責任を負わない旨を主張して上告した。
事件番号: 昭和28(あ)1870 / 裁判年月日: 昭和33年3月27日 / 結論: 棄却
商法(昭和一三年法律第七二号による改正後のもの)第四八九条(会社財産を危くする罪)第一号の罪と刑法第一五七条の罪(公正証書原本不実記載罪)とは、共に成立し、両者は刑法第五四条第一項前段の関係に立ちうる。
あてはめ
本件において被告人は法人の代表者の地位にあり、法人の利益のために行動している。しかし、刑法における責任の原則は行為者個人に帰属するものである。法人という法擬制上の存在が処罰対象となり得るか(両罰規定の存否等)という問題とは別個に、自然人たる代表者が犯罪を構成する具体的行為を行った以上、それは被告人自身の行為として評価される。したがって、代表者としての地位や目的が法人のためであったとしても、行為者個人の刑事責任を否定する理由にはならない。
結論
法人の代表者個人は、法人のために行った犯罪行為について刑事責任を負う。
実務上の射程
法人の業務執行に関連するいわゆる行政刑罰や経済犯罪において、行為者(自然人)の責任を基礎付ける際の根拠となる。法人処罰(両罰規定)の有無にかかわらず、現実に実行行為に及んだ自然人は処罰されるという原則を確認する際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…
事件番号: 昭和38(あ)1593 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、…
事件番号: 昭和31(あ)2416 / 裁判年月日: 昭和35年1月11日 / 結論: 棄却
たとい不動産の真実の所有者であつても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因としかつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原…
事件番号: 昭和40(あ)2687 / 裁判年月日: 昭和41年4月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】戸籍の作成行為について、被告人らに行使の目的がない場合には、公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)等は成立しない。 第1 事案の概要:被告人および相被告人Aは、不実の内容を含む原戸籍を作成する行為に及んだが、当該戸籍の作成行為については、被告人らにおいて「行使の目的」が存在していなかった。原判…