仮装による所有権移転登記を刑法一五七条一項によつて処罰するのは憲法二九条に違反するとの主張が欠前提とされた事例
憲法29条,刑法157条
判旨
仮装による所有権移転登記を公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)により処罰することは、真正なる公正証書の内容に対する公の信用を保護するためであり、憲法29条の財産権保障には違反しない。
問題の所在(論点)
仮装による所有権移転登記を刑法157条1項により処罰することが、憲法29条に違反するか。すなわち、同罪の保護法益と処罰の合理性が問われた。
規範
刑法157条1項の公正証書原本不実記載罪は、真正なる公正証書の内容に対する公の信用を保護法益とする。したがって、実体上の権利関係に合致しない仮装の所有権移転登記を同罪として処罰することは、公共の信用の維持を目的とする適法な制裁であり、憲法が保障する財産権の本質を侵すものではない。
重要事実
被告人が、実体上の所有権移転の合意がないにもかかわらず、通謀等により仮装の所有権移転登記を申請し、登記簿(公正証書の原本)に不実の記載をさせた事案。弁護人は、このような処罰が憲法29条(財産権の保障)に違反すると主張して上告した。
あてはめ
仮装による所有権移転登記は、登記簿という公の信用を付与された書面に、真実に反する事実を記載させる行為である。これは「真正なる公正証書の内容に対する公の信用を害する危険」を惹起するものであり、同罪の構成要件に該当する。この処罰は公的信用の維持という正当な行政・司法上の目的に基づくものであり、私人の財産権行使の範疇を超える違法な侵害には当たらないと評価される。
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…
結論
仮装による所有権移転登記の処罰は憲法29条に違反しない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
公正証書原本不実記載罪の保護法益が「公正証書の内容に対する公の信用」であることを明確にする際に引用する。また、実体関係のない登記申請が同罪に該当することを前提とした憲法判断の事案として、短答式試験や論文式の「罪数・構成要件」の周辺知識として有用である。
事件番号: 昭和59(あ)1559 / 裁判年月日: 昭和60年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】余罪を量刑の資料とする際、それが実質的に未起訴の犯罪を処罰する趣旨で考慮されたものでない限り、憲法31条及び39条には反しない。 第1 事案の概要:被告人は有印私文書偽造・同行使等の罪で起訴された。第一審判決は、本件各犯行の犯罪組成物件を没収するとともに、未起訴の事実(余罪)を量刑の資料として考慮…
事件番号: 平成15(あ)1429 / 裁判年月日: 平成16年7月13日 / 結論: 棄却
1 小型船舶の船籍及び総トン数の測度に関する政令(平成13年政令第383号による改正前のもの)8条の2の船籍簿は,刑法157条1項にいう「権利若しくは義務に関する公正証書の原本」に当たる。 2 小型船舶の船籍及び総トン数の測度に関する政令(平成13年政令第383号による改正前のもの)4条1項に基づく船籍票の内容虚偽の書…
事件番号: 昭和31(あ)2416 / 裁判年月日: 昭和35年1月11日 / 結論: 棄却
たとい不動産の真実の所有者であつても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因としかつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原…
事件番号: 昭和41(あ)2069 / 裁判年月日: 昭和46年2月23日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の所有権移転につき、金融を得やすくする等の目的で、真実権利を移転する意思をもってなされた登記申請は、仮に売買を原因とする形式を採ったとしても公正証書原本不実記載罪における「不実の記録」には当たらない。権利移転の実体的な効果意思が認められる限り、虚偽の意思表示による不実の記載とはいえない。 第…