いわゆる見せ金により、株式の払込を仮装したのみで、なんら設立手続が行なわれていないため、会社が不存在であるにかかわらずその設立の登記を申請し、登記官をして商業登記簿の原本にその旨記載させたときは、登記事項のすべてに関し公正証書原本不実記載罪合が成立する。
会社が不存在であるにかかわらずその設立の登記をした場合と公正証書原本不実記載罪。
刑法157条1項,商法188条,商法57条
判旨
会社設立の手続が全く欠如し、実体として会社が不存在といえる状況下で行われた設立登記は、その登記事項のすべてが不実である。したがって、発行済株式数や資本金のみならず、登記事項全体について公正証書原本不実記載罪が成立する。
問題の所在(論点)
定款作成、株式引受、払込、機関選任といった設立手続が全く行われていない「会社不存在」の状態においてなされた設立登記について、公正証書原本不実記載罪が成立するか。
規範
公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)における「不実の記載」とは、実体的な権利関係や事実と合致しない記載を指す。会社設立登記において、会社としての実体が全く存在しない場合には、その登記事項の全部が実体に反する不実のものとなる。
重要事実
被告人らは、A株式会社の設立登記を申請したが、実際には定款が作成されておらず、株式の引き受けも行われていなかった。また、株式の払い込みはすべて「見せ金」によるものであり、創立総会も一度も開催されず、取締役等の会社機関の選任も行われていなかった。それにもかかわらず、これらの手続が適正に完了したかのように装って設立登記を完了させた。
事件番号: 昭和38(あ)1593 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、…
あてはめ
本件では、定款の不存在、株式引受の形跡の欠如、見せ金による払込、創立総会および機関選任の未実施が認められる。これらの事実関係の下では、会社としての実体が認められず「会社は不存在」というほかはない。そうであれば、商業登記簿に記載された「発行済株式の総数」や「資本の額」といった個別の項目にとどまらず、登記事項のすべてが実体に反する。したがって、その全部について不実の記載がなされたと評価される。
結論
本件会社の設立登記は、登記事項のすべてに関し不実であるといえるため、公正証書原本不実記載罪が成立する。
実務上の射程
会社法上の設立無効や不存在の議論と連動するが、刑事罰の観点からは、手続の形骸化が著しく実体が認められない場合には全登記事項について不実性が認められるとする。特に「見せ金」を用いた仮装設立事案において、罪責の範囲を検討する際の重要な指針となる。
事件番号: 昭和44(あ)822 / 裁判年月日: 昭和47年10月24日 / 結論: 棄却
収税官吏が、国税犯則取締法一三条一項但書所定の事由があるとして、直ちに告発した場合においても、その要件事実の有無の判断に誤りがあるときには、その告発は無効である。
事件番号: 昭和30(あ)1934 / 裁判年月日: 昭和35年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧商法における「預合」とは、発起人等が株金払込を仮装するために払込取扱機関の役職員と通謀してなす偽装行為をいい、一方で「見せ金」は役職員との通謀を伴わない点で区別される。 第1 事案の概要:A株式会社の発起人である被告人両名は、真実の株式引受人からの払込がないにもかかわらず、設立登記を完了させる目…
事件番号: 昭和39(あ)472 / 裁判年月日: 昭和41年10月11日 / 結論: 破棄差戻
会社の設立又は増資に際し、株金の払込が仮装のものであるにかかわらずこれを秘し、その株式引受人による払込が完了し、設立又は増資をした旨の登記申請をなし、商業登記簿の原本にその記載をなさしめたときは、商法第一八八条第二項第五号「発行済株式ノ総数」に関し、公正証書原本不実記載罪が成立する。
事件番号: 昭和62(あ)1283 / 裁判年月日: 平成3年2月28日 / 結論: 棄却
増資の際、株式の払込みは、当初から真実の払込みとして会社資金を確保させる意図はなく、会社と名目的な引受人との合意に基づき、引受人が会社自身又は他から一時借り入れた金員をもって単に払込みの外形を整えた後、会社において直ちに右払込金を払い戻して、借入金の返済等に充て、あるいは払込金を会社名義の定期預金とした上これに質権を設…