収税官吏が、国税犯則取締法一三条一項但書所定の事由があるとして、直ちに告発した場合においても、その要件事実の有無の判断に誤りがあるときには、その告発は無効である。
国税犯則取締法一三条一項但書所定の要件の判断の誤りと告発の効力
国税犯則取締法13条1項
判旨
募集設立において形式的な創立総会が開催されなくとも、全株式引受人の意思が一致して役員を選任した場合は、その登記は公正証書原本不実記載罪の「不実」にあたらない。また、国税犯則取締法に基づく収税官吏の直告発に要件の誤りがある場合、その告発は無効となり、公訴提起の効力も否定される。
問題の所在(論点)
1. 創立総会を欠く状況でなされた役員選任登記は、公正証書原本不実記載罪の「不実の申立て」にあたるか。 2. 国税犯則取締法に基づく収税官吏の直告発につき、裁判所がその要件の存否を審査し、不備がある場合に公訴を棄却できるか。
規範
1. 公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)における「不実」とは、実質的権利関係に合致しない記載をいう。株式会社の設立において、形式的な総会開催や招集手続に瑕疵があっても、全関係者の意思の一致により役員が選任されたと認められる場合には、その選任は有効であり、登記を不実とすることはできない。 2. 国税犯則取締法13条1項但書に基づく収税官吏の直告発は、通告処分による公訴権消滅の利益を奪う側面があるため、要件(逃走・証憑隠滅の虞等)の判断は恣意的に行われてはならない。裁判所は、当該要件事実の有無について審査権を有し、判断に誤りがある場合の告発は無効として公訴を棄却すべきである。
重要事実
被告人らは株式会社の設立に際し、発起人や株式申込人として関与した。これらの者は親族や同一企業の従業員で昵懇の間柄であり、常日頃から意思疎通を図っていた。本件会社の役員選任についても全員の意思が一致していたが、形式的な創立総会は開催されなかった。この状態で役員選任登記を行ったことが公正証書原本不実記載罪に問われた。また、入場税法違反に関し、収税官吏が通告処分を経ずに行なった直告発の有効性が争われた。
事件番号: 昭和39(あ)1854 / 裁判年月日: 昭和40年6月24日 / 結論: 棄却
いわゆる見せ金により、株式の払込を仮装したのみで、なんら設立手続が行なわれていないため、会社が不存在であるにかかわらずその設立の登記を申請し、登記官をして商業登記簿の原本にその旨記載させたときは、登記事項のすべてに関し公正証書原本不実記載罪合が成立する。
あてはめ
1. 本件関係者は全員が親族または昵懇な従業員であり、役員選任についても事前に意思が一致していた。このような事実関係のもとでは、形式的な招集手続を欠き創立総会が開催されていないとしても、実質的には創立総会の決議による選任があったと評価できる。したがって、その旨の登記は実体関係に反せず「不実」とはいえない。 2. 国税犯則の通告処分制度は犯則者に公訴権消滅の利益を与えるものである。収税官吏が例外的に直告発を行うには客観的な要件(逃走の虞等)が必要であり、本件においてその要件事実の判断に誤りがあるならば、当該告発は適法な公訴提起の前提を欠く無効なものと解される。
結論
1. 役員選任登記は不実とはいえず、公正証書原本不実記載罪は成立しない。 2. 直告発の要件事実に誤りがある場合の告発は無効であり、それに基づく公訴提起は不適法として棄却されるべきである。
実務上の射程
会社法上の手続瑕疵が刑事罰(157条1項)に直結するか否かの判断基準を示す。手続の形式的欠如よりも、全株主の意思一致という実質を重視する「全員出席総会」等の法理に近い判断枠組みである。公租公課に関する刑事手続では、行政側の裁量を制約し、適正手続(31条)の観点から裁判所の審査権を認めた点に実務上の意義がある。
事件番号: 昭和38(あ)1593 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、…
事件番号: 昭和41(あ)2069 / 裁判年月日: 昭和46年2月23日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の所有権移転につき、金融を得やすくする等の目的で、真実権利を移転する意思をもってなされた登記申請は、仮に売買を原因とする形式を採ったとしても公正証書原本不実記載罪における「不実の記録」には当たらない。権利移転の実体的な効果意思が認められる限り、虚偽の意思表示による不実の記載とはいえない。 第…
事件番号: 昭和39(あ)472 / 裁判年月日: 昭和41年10月11日 / 結論: 破棄差戻
会社の設立又は増資に際し、株金の払込が仮装のものであるにかかわらずこれを秘し、その株式引受人による払込が完了し、設立又は増資をした旨の登記申請をなし、商業登記簿の原本にその記載をなさしめたときは、商法第一八八条第二項第五号「発行済株式ノ総数」に関し、公正証書原本不実記載罪が成立する。
事件番号: 昭和45(あ)1473 / 裁判年月日: 昭和46年7月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪において、申請書類に登記義務者の委任状を欠く等の形式的瑕疵があっても、登記官がこれを看過して受理し、実体関係のない不実の記載がなされた以上、同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、虚偽の仮登記申請を行うにあたり、本来必要とされる登記義務者Aの委任状を添付せず、代わりに登…