無権限者が自己を議長取締役等と表示して株式会社の株主総会議事録等を作成した場合の当該文書の作成名義人
刑法159条1項
判旨
株主総会議事録、取締役会議事録、および株式会社変更登記申請書の作成名義人は、個別の取締役や代表取締役個人ではなく、当該会社自体(あるいは株主総会・取締役会という機関)であると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
法人の役員等の肩書きを付して作成された文書(議事録や登記申請書)において、有印私文書偽造罪の成否を検討する際の「作成名義人」は誰か。
規範
有印私文書偽造罪(刑法159条1項)における作成名義人の判断において、法人の機関としての資格を表示して作成された文書(臨時株主総会議事録、取締役会議事録、登記申請書等)の作成名義人は、その表示の態様に応じ、当該法人、またはその法人の機関(株主総会・取締役会)自体であると解する。
重要事実
被告人は、作成権限がないにもかかわらず、A株式会社の臨時株主総会議事録および同社取締役会議事録について「議長取締役」と表示して作成した。さらに、株式会社変更登記申請書について「A株式会社代表取締役」と表示して作成した。第1審および原審は、これらの文書の作成名義人を「同社取締役」または「同社代表取締役B」個人であると判断していた。
あてはめ
本件各文書の記載内容を確認すると、議事録については「議長取締役」という機関の資格で、登記申請書については「A株式会社代表取締役」という会社の代表者としての資格で作成されている。この場合、一般の閲覧者等の社会通念に照らせば、文書の作成主体は法人たるA株式会社、あるいはその意思決定機関である株主総会・取締役会自体であると理解される。したがって、原審が名義人を自然人(取締役個人)とした点は誤りである。
事件番号: 昭和44(あ)1421 / 裁判年月日: 昭和45年9月4日 / 結論: 棄却
他人の代表者または代理人として文書を作成する権限のない者が、他人を代表もしくは代理すべき資格、または、普通人をして他人を代表もしくは代理するものと誤信させるに足りるような資格を表示して作成した文書の名義人は、代表もしくは代理された本人であると解するのが相当である。
結論
本件各文書の作成名義人は、A株式会社、同社臨時株主総会、あるいは同社取締役会である。原審の判断に法令の解釈適用の誤りはあるが、権限なき者による作成として私文書偽造罪の成立を認めた結論は妥当であり、判決に影響を及ぼさない。
実務上の射程
法人の内部文書や対外的な申請書類における名義人の特定に関する重要判例である。答案上では、偽造の定義(名義人と作成者の不一致)を論じる際、まず「名義人」が誰であるかを確定させる過程で使用する。特に代表者資格を用いた文書では、名義人を自然人個人ではなく法人自体と解する本判例の枠組みに従う必要がある。
事件番号: 平成14(あ)1164 / 裁判年月日: 平成15年10月6日 / 結論: 棄却
正規の国際運転免許証に酷似する文書をその発給権限のない団体Aの名義で作成した行為は,上記文書が,一般人をして,その発給権限を有する団体であるAにより作成された正規の国際運転免許証であると信用させるに足りるものであるなど判示の事実関係の下では,団体Aから上記文書の作成を委託されていたとしても,私文書偽造罪に当たる。
事件番号: 平成9(あ)1227 / 裁判年月日: 平成11年12月20日 / 結論: 棄却
虚偽の氏名等を記載した履歴書及び雇用契約書等を作成行使した行為は、たとえ自己の顔写真がはり付けられ、あるいは各文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、有印私文書偽造、同行使罪に当たる。
事件番号: 平成15(あ)537 / 裁判年月日: 平成15年12月18日 / 結論: 棄却
司法書士に対し金銭消費貸借契約証書に基づく公正証書の作成の代理嘱託を依頼するに際して偽造の同契約証書を真正な文書として交付する行為は,刑法161条1項にいう「行使」に当たる。
事件番号: 平成5(あ)135 / 裁判年月日: 平成5年10月5日 / 結論: 棄却
自己の氏名が弁護士甲と同姓同名であることを利用して、「弁護士甲」の名義で弁護士の業務に関連した形式、内容の文書を作成した所為は、たとえ名義人として表示された者の氏名が自己の氏名と同一であったとしても、私文書偽造罪に当たる。