虚偽の氏名等を記載した履歴書及び雇用契約書等を作成行使した行為は、たとえ自己の顔写真がはり付けられ、あるいは各文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、有印私文書偽造、同行使罪に当たる。
虚偽の氏名等を記載した履歴書等を作成行使した行為が有印私文書偽造、同行使罪に当たるとされた事例
刑法159条1項,刑法161条1項
判旨
私文書偽造罪の本質は名義人と作成者の人格の同一性を偽る点にある。偽名を用いた履歴書作成において、記載内容や文書の性質から名義人が作成者とは別人格の者であると表示されている以上、たとえ作成者の写真が貼付され、責任を免れる意思がなくても、人格の同一性の阻害が認められ同罪が成立する。
問題の所在(論点)
偽名を用いた履歴書等の作成において、作成者の写真が貼付され、かつ責任負担の意思がある場合であっても、名義人と作成者の人格の同一性を偽ったものとして「偽造」にあたるか。
規範
私文書偽造罪(刑法159条1項)の本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にある。文書に表示された名義人が、客観的に作成者とは別人格の者であると認められる場合には、名義人と作成者の人格の同一性にそごが生じ、偽造にあたる。
重要事実
被告人は、Aという偽名を用いて就職するため、虚偽の氏名、生年月日、住所、経歴等を記載したA名義の履歴書(被告人の顔写真を貼付)および雇用契約書を作成し、勤務先に提出した。なお、被告人はこれらの文書から生じる責任を免れようとする意思は有していなかった。
事件番号: 平成14(あ)1164 / 裁判年月日: 平成15年10月6日 / 結論: 棄却
正規の国際運転免許証に酷似する文書をその発給権限のない団体Aの名義で作成した行為は,上記文書が,一般人をして,その発給権限を有する団体であるAにより作成された正規の国際運転免許証であると信用させるに足りるものであるなど判示の事実関係の下では,団体Aから上記文書の作成を委託されていたとしても,私文書偽造罪に当たる。
あてはめ
本件履歴書等は、虚偽の氏名・生年月日・経歴等が記載されたものであり、文書の性質・機能に照らせば、そこに表示された名義人は被告人とは別人格の者である。被告人の写真が貼付されている事実は、名義人が被告人と別人格であるという客観的表示を覆すものではない。また、偽造罪は社会的公共の信用を保護法益とするため、作成者が責任を免れる意思を有していたか否かは、人格の同一性の阻害という結論を左右しない。したがって、名義人と作成者の人格の同一性にそごが生じているといえる。
結論
被告人の行為には有印私文書偽造罪および同行使罪が成立する。
実務上の射程
通称名や偽名を用いた文書作成における偽造の成否に関する重要判例である。写真の貼付という「作成者の特定に資する要素」や「責任負担の意思」があっても、文書の性質上、特定の属性(氏名・経歴等)を持つ別人格として表示されていれば偽造となることを明示した。答案では、単なる氏名の偽称にとどまらず、人格の同一性が偽られたかを判断する際のメルクマールとして活用する。
事件番号: 平成15(あ)537 / 裁判年月日: 平成15年12月18日 / 結論: 棄却
司法書士に対し金銭消費貸借契約証書に基づく公正証書の作成の代理嘱託を依頼するに際して偽造の同契約証書を真正な文書として交付する行為は,刑法161条1項にいう「行使」に当たる。
事件番号: 平成5(あ)135 / 裁判年月日: 平成5年10月5日 / 結論: 棄却
自己の氏名が弁護士甲と同姓同名であることを利用して、「弁護士甲」の名義で弁護士の業務に関連した形式、内容の文書を作成した所為は、たとえ名義人として表示された者の氏名が自己の氏名と同一であったとしても、私文書偽造罪に当たる。
事件番号: 平成16(あ)955 / 裁判年月日: 平成16年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】株主総会議事録、取締役会議事録、および株式会社変更登記申請書の作成名義人は、個別の取締役や代表取締役個人ではなく、当該会社自体(あるいは株主総会・取締役会という機関)であると解するのが相当である。 第1 事案の概要:被告人は、作成権限がないにもかかわらず、A株式会社の臨時株主総会議事録および同社取…
事件番号: 昭和41(あ)2908 / 裁判年月日: 昭和42年9月7日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】有印私文書偽造・同行使罪の共謀が認められるためには、単に虚偽内容の文書を作成して資金を借り受ける意思や共謀があるだけでは足りず、特定の他人の名義を冒用して文書を偽造し、これを行使することについての具体的な認識ないし共謀が必要である。 第1 事案の概要:被告人Aは、共犯者BおよびCと、架空の溜池改修…