司法書士に対し金銭消費貸借契約証書に基づく公正証書の作成の代理嘱託を依頼するに際して偽造の同契約証書を真正な文書として交付する行為は,刑法161条1項にいう「行使」に当たる。
司法書士に対し金銭消費貸借契約証書に基づく公正証書の作成の代理嘱託を依頼するに際して偽造の同契約証書を真正な文書として交付する行為と刑法161条1項にいう「行使」
刑法161条1項
判旨
司法書士に対し、虚偽の内容の金銭消費貸借契約証書を真正なものとして交付し、公正証書の作成嘱託を依頼する行為は、文書の公共的信用を害するおそれがあるため、有印私文書行使罪(刑法161条1項)が成立する。
問題の所在(論点)
司法書士に対し、公正証書作成嘱託の資料として偽造文書を交付する行為が、刑法161条1項の「行使」に該当するか。特に、司法書士が公証人への取次ぎを行う立場にある場合に、文書に対する公共の信用を害するおそれがあるかが問題となる。
規範
偽造文書の行使とは、偽造された文書を真正なものとして、他人に閲覧・交付等し、その内容を認識し得る状態に置くことをいう。その判断にあたっては、当該文書の内容、交付の目的、および交付の相手方の属性等にかんがみ、文書に対する公共の信用を害するおそれがあるといえるか否かという観点から決すべきである。
重要事実
被告人は共犯者と共謀し、実際には存在しない5億円の借入れを内容とする虚偽の金銭消費貸借契約証書を偽造した。被告人らは、司法書士事務所において、司法書士に対し、当該証書に基づき公正証書を作成するよう代理嘱託を依頼する際、これを真正なものとして装って交付した。
事件番号: 平成9(あ)1227 / 裁判年月日: 平成11年12月20日 / 結論: 棄却
虚偽の氏名等を記載した履歴書及び雇用契約書等を作成行使した行為は、たとえ自己の顔写真がはり付けられ、あるいは各文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、有印私文書偽造、同行使罪に当たる。
あてはめ
本件証書は、5億円という多額の金銭消費貸借を内容とするものであり、その社会的証明力の重要性は高い。交付の相手方である司法書士は、国家資格に基づき登記や公正証書作成の嘱託を代理する職責を担っており、その業務過程に偽造文書が介在することは、文書の公共的信用を著しく害する。したがって、公正証書作成という目的のために、当該職責を有する司法書士に真正なものとして交付した行為は、文書の信用性を危うくする「行使」にあたるといえる。
結論
司法書士に偽造文書を交付した行為は、偽造有印私文書行使罪を構成する。したがって、同罪の成立を認めた原判決の判断は正当である。
実務上の射程
本判決は、行使の相手方が「情を知らない者」や「特定の専門職」である場合であっても、その交付が文書の公共的信用を害する客観的状況にあれば行使罪が成立することを明確にしている。答案上は、行使の定義(認識し得る状態に置くこと)を述べた上で、相手方の属性や交付の目的から、法益侵害の危険性を具体的に論証する際の根拠として活用すべきである。
事件番号: 平成16(あ)955 / 裁判年月日: 平成16年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】株主総会議事録、取締役会議事録、および株式会社変更登記申請書の作成名義人は、個別の取締役や代表取締役個人ではなく、当該会社自体(あるいは株主総会・取締役会という機関)であると解するのが相当である。 第1 事案の概要:被告人は、作成権限がないにもかかわらず、A株式会社の臨時株主総会議事録および同社取…
事件番号: 昭和27(あ)4689 / 裁判年月日: 昭和34年7月14日 / 結論: 棄却
本件A不動産株式会社増資新株式申込証拠金領収書は刑法一六二条所定の有価証券に当たる。
事件番号: 平成16(あ)761 / 裁判年月日: 平成16年11月30日 / 結論: 棄却
1 郵便送達報告書の受領者の押印又は署名欄に他人である受送達者本人の氏名を冒書する行為は,同人名義の受領書を偽造したものとして,有印私文書偽造罪を構成する。 2 支払督促の債務者を装い郵便配達員を欺いて支払督促正本を受領することにより,送達が適式にされたものとして支払督促の効力を生じさせ,債務者から督促異議申立ての機会…
事件番号: 昭和59(あ)555 / 裁判年月日: 昭和61年6月27日 / 結論: 棄却
行使の目的をもつて、ほしいままに、営林署長の記名押印がある売買契約書の売買代金欄等の記載に改ざんを施すなどしたうえ、これを複写機械で複写する方法により、あたかも真正な右売買契約書を原形どおり正確に複写したかのような形式、外観を備えるコピーを作成した所為は、その改ざんが原本自体にされたのであれば未だ文書の変造の範ちゆうに…