本件A不動産株式会社増資新株式申込証拠金領収書は刑法一六二条所定の有価証券に当たる。
株式申込証拠金領収書が刑法第一六二条の有価証券にあたるとされた事例。
刑法162条,刑法159条
判旨
株式会社の増資新株式申込証拠金領収書は、刑法162条にいう「有価証券」に該当する。ある証書が有価証券に当たるか否かは、証書の種類ごとに個別的に判断すべきである。
問題の所在(論点)
株式会社の増資新株式申込証拠金領収書が、刑法162条1項の「有価証券」に該当するか。また、判例違反の主張において異なる種類の証書に関する一般的説明を援用することの可否。
規範
刑法162条にいう「有価証券」とは、財産的価値のある権利が証券に表章され、その権利の行使または移転に証券の占有を要するものを指す。ある種類の証書がこれに該当するか否かは、当該証書の種類ごとに、その性質や機能に即して個別的に判断されるべきである。
重要事実
被告人らは、A不動産株式会社の増資に際し、新株式申込証拠金の領収書を偽造した。弁護人は、大審院の判例が示した有価証券の一般的説明を根拠に、当該領収書は有価証券に当たらないと主張して上告した。
あてはめ
事件番号: 昭和31(あ)2893 / 裁判年月日: 昭和34年12月4日 / 結論: 棄却
昭和二六年改正商法施行当時までは、証券取引界において、増資新株式証拠金領収書に白紙委任状の添付されたものは株式類似の証券的作用を営んでいたのであり、該領収書は刑法第一六二条の有価証券であると解するを相当とする。
本件の領収書は、単なる受取証書にとどまらず、新株引受権等の財産的権利を表章し、その行使に証書の提示等を要する性質を有する。弁護人が引用する大審院判例は、本件とは異なる種類の証書に関するものであり、有価証券の該当性は証書ごとに個別判断すべきであるから、当該領収書を有価証券と認めた原判決に判例違反や法令解釈の誤りはない。
結論
株式会社増資新株式申込証拠金領収書は有価証券に該当する。したがって、これを偽造する行為には有価証券偽造罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、証拠金領収書の有価証券性を肯定した実務上重要な先例である。答案上では、有価証券の定義(権利の表章、行使・移転への占有の必要性)を論じた上で、本判決を引用して証拠金領収書がこれに含まれることを指摘する。また、証書の種類ごとに個別判断する姿勢は、新たな形態の証書の罪質を検討する際の解釈指針となる。
事件番号: 昭和27(あ)5985 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の有価証券とは、証券に表示された権利の行使・移転に証券の占有を要するものをいい、取引慣習上、証券に権利が表彰されているものとして取引の客体とされているものはこれに該当する。増資新株式申込証拠金領収証は、白紙委任状を添付して売買や担保に供される取引慣行があるため、刑法上の有価証券にあたる。 第…
事件番号: 昭和28(あ)1588 / 裁判年月日: 昭和30年6月29日 / 結論: 棄却
有価証券偽造罪を判示するにあたつては、いかなる名義人のいかなる内容の有価証券であるかがわかる程度に判示するを以て足り、商法上の手形要件を全部表示するの必要はない。
事件番号: 平成15(あ)537 / 裁判年月日: 平成15年12月18日 / 結論: 棄却
司法書士に対し金銭消費貸借契約証書に基づく公正証書の作成の代理嘱託を依頼するに際して偽造の同契約証書を真正な文書として交付する行為は,刑法161条1項にいう「行使」に当たる。
事件番号: 昭和35(あ)493 / 裁判年月日: 昭和35年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有価証券偽造罪及び同虚偽記入罪の成立には、その名義の被冒用者が実在人であることを要しない。本判決は、被冒用者の実在性を要件としていた大審院時代の判例は既に変更されていることを確認したものである。 第1 事案の概要:被告人両名が有価証券偽造罪乃至同虚偽記入罪に問われた事案。弁護人は、大審院の判例に基…