判旨
刑法上の有価証券とは、証券に表示された権利の行使・移転に証券の占有を要するものをいい、取引慣習上、証券に権利が表彰されているものとして取引の客体とされているものはこれに該当する。増資新株式申込証拠金領収証は、白紙委任状を添付して売買や担保に供される取引慣行があるため、刑法上の有価証券にあたる。
問題の所在(論点)
増資新株式申込証拠金領収証は、商法上の規定にかかわらず、刑法162条・163条にいう「有価証券」に該当するか。
規範
刑法上の「有価証券」(162条)とは、証券に表示されている権利の行使又は移転に通常その証券の占有を必要とするものを指す。その趣旨は、一般私文書よりも高度の信用性を担保し、一般取引界における不測の損害を防止することにある。したがって、証券上の権利が記載内容から必ずしも明瞭でない場合であっても、取引上の慣習と相まって、その権利が証券に表彰されているものと同様に取引の客体とされているものは、有価証券と解するのが相当である。
重要事実
被告人Bは、昭和24年から25年ごろ、偽造された「増資新株式申込証拠金領収証」であることを知りながら、これを金融の担保として行使し、または行使の目的で他人に交付した。当時の証券取引界においては、当該領収証に白紙委任状を添付することで、株券類似の証券的作用を営むものとして、売買や担保等の目的に利用されているという取引慣行が存在していた。
あてはめ
本件の領収証は、当時の証券取引界において、白紙委任状を添付して流通しており、実質的に株券と同様の機能を果たしていた。このような取引慣行が存在する場合、当該証券は権利の行使・移転に占有を要する「取引の客体」となっているといえる。したがって、証券上の権利内容が直ちに明瞭でなくとも、高度の信用性を保護すべき有価証券としての実質を備えていると評価できる。
結論
増資新株式申込証拠金領収証は刑法上の有価証券に該当する。したがって、偽造された同領収証を行使・交付した行為について、偽造有価証券行使罪(163条1項)が成立する。
事件番号: 昭和31(あ)2893 / 裁判年月日: 昭和34年12月4日 / 結論: 棄却
昭和二六年改正商法施行当時までは、証券取引界において、増資新株式証拠金領収書に白紙委任状の添付されたものは株式類似の証券的作用を営んでいたのであり、該領収書は刑法第一六二条の有価証券であると解するを相当とする。
実務上の射程
有価証券の定義について「権利の行使・移転に証券の占有を要すること」という基本的枠組みを示しつつ、取引慣習による拡張を認めた点に射程がある。答案上は、まず形式的な定義を述べた上で、問題となる証券の具体的流通実態(取引慣行)を指摘し、本判例のロジックを用いて有価証券性を肯定する流れで活用すべきである。
事件番号: 昭和27(あ)4689 / 裁判年月日: 昭和34年7月14日 / 結論: 棄却
本件A不動産株式会社増資新株式申込証拠金領収書は刑法一六二条所定の有価証券に当たる。
事件番号: 平成15(あ)537 / 裁判年月日: 平成15年12月18日 / 結論: 棄却
司法書士に対し金銭消費貸借契約証書に基づく公正証書の作成の代理嘱託を依頼するに際して偽造の同契約証書を真正な文書として交付する行為は,刑法161条1項にいう「行使」に当たる。
事件番号: 昭和35(あ)493 / 裁判年月日: 昭和35年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有価証券偽造罪及び同虚偽記入罪の成立には、その名義の被冒用者が実在人であることを要しない。本判決は、被冒用者の実在性を要件としていた大審院時代の判例は既に変更されていることを確認したものである。 第1 事案の概要:被告人両名が有価証券偽造罪乃至同虚偽記入罪に問われた事案。弁護人は、大審院の判例に基…